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執筆者の写真林田医療裁判

医療基本法とProfessionalism

患者の権利法をつくる会は医療基本法制定に向けての公開シンポジウム「医療基本法とプロフェッショナリズム」を2024年11月24日(日)に開催した。このシンポジウムは、日比谷図書館文化館4階小ホールとオンライン(Zoom)で行われ、全国から関心を集めた。


最初にコーディネーターの鈴木利廣・患者の権利法をつくる会世話人・弁護士が話した。プロフェッショナリズム論は1990年代から欧米で議論され始めた。背景に医師中心主義から患者中心主義への転換があると指摘した。


以下は感想である。プロフェッショナリズムと言えば高度な専門性というイメージを抱くが、患者の権利重視とプロフェッショナリズム重視が並行されることは興味深い。医療は患者のためにある。あくまで患者のための専門性である。医療の現場で患者を中心に据えたプロフェッショナリズムがどう実現できるか、今後の議論が期待される。


続いて三人のパネリストが各々の立場から問題提起を行った。一人目は渡辺弘司・日本医師会常任理事外資の立場から話した。プロフェッションは社会との契約である。プロフェッショナリズムは利他的な態度に基づくものと指摘した。


以下は感想である。医療のプロフェッショナリズムは、患者やその家族に寄り添い、信頼を築く姿勢が不可欠である。しかし、医療が患者の視点と必ずしも一致していない場面もある。

林田医療裁判では立正佼成会附属佼成病院(当時)の主治医が「カルテ記載内容の補足として、私は、大事を取りすぎて、意思疎通ができないまま寝たきり状態になるのが最善とは言えない、という主治医の理念をわきまえた上での延命治療拒否だと思いました」と陳述した(乙A第3号証8頁)。

この発言から浮かび上がるものは、医師の理念や考え方を家族が「理解するべき」とされる医療の在り方である。このような姿勢は本当に利他的と言えるだろうか?患者やその家族が納得し、安心して選択できる医療が提供されるためには、医療従事者からの一方的な価値観の押し付けではなく、十分な意思疎通と確認が必要である。


二人目は野口百香・公益社団法人日本医療ソーシャルワーカー協会長が医療ソーシャルワーカーの立場から話した。医療ソーシャルワーカーは医療の現場で働くが、福祉職である。その役割は患者や家族が直面する様々な課題をサポートすることにある。


日本医療ソーシャルワーカー協会は2024年3月に厚生労働省医政局長に「身寄りのない状態で意思決定が困難な人に生じる社会的課題に関する要望書」を提出した。そこでは以下の要望を出している。「医療を受ける権利は本人にあります。本人の判断能力が不十分またはない状態になっても、本人の意思が尊重されるための医療機関の対応の標準化を希望します」


これは林田医療裁判の公開質問状と重なる。公開質問状では「複数人の家族の意見から本人の意思を推定する取り組み内容を教えてください」と尋ねている。患者の意思が尊重されるためには、家族や関係者の意見を丁寧に聞き取り、それを基に患者が望む最善の選択を導き出すプロセスが重要になる。


三人目は岡谷恵子・NPO法人日本慢性疾患セルフマネジメント協会理事長が看護職の立場から話した。患者と医療専門職の関係の対等性が保証される文化や環境を実現させる必要があると指摘した。これも林田医療裁判の主治医の理念はアンチテーゼになる。


医療現場では患者自身の声や選択が十分に尊重されない場面も少なくない。関係の対等性は、このような医療の現状に対する重要な提言である。患者が自分の治療方針や生活について主体的に選択できる環境づくりが医療の質を向上させる鍵となる。


これは林田医療裁判で浮かび上がった問題とも深く関連する。同裁判では主治医が患者長男の延命治療拒否を主治医の理念をわきまえた元と陳述した。ここに患者本人の希望はない。このような状況は対等な関係性の欠如を物語る。患者が専門家の知識を借りながらも、自分らしい選択を行える医療環境をつくること。その実現が、多くの医療消費者にとって安心と信頼をもたらす第一歩となる。


質疑応答では綱領などは素晴らしいが日本の医療現場の実態と乖離があるとの意見が複数出た。

「総じて言えることは、言い方は良くないですが、みなさんのように上層部におられる方々は、充分にご理解されている倫理綱領などを充分にご理解されているのですが、実際が相当乖離していることが問題です」

「各お立場の方々の意識や倫理綱領は素晴らしいのに、現場はほど遠いが多いのです。それが問題なのです」


林田医療裁判を考える会からは以下の質問をした。

***

日本医療ソーシャルワーカー協会「身寄りのない状態で意思決定が困難な人に生じる社会的課題に関する要望書」には「本人の判断能力が不十分またはない状態になっても、本人の意思が尊重されるための医療機関の対応の標準化を希望します」とあります。

標準化の具体的イメージを教えてください。

身元保証人やキーパーソンとなった特定の家族の意思を本人の意思の代わりにしてしまうことを避ける方策はありますでしょうか。

***

以下の回答がなされた。

野口「厚生労働省が「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」を出している。協会の要望では全ての医療機関で倫理委員会の設置を求めている。意思決定ができない人の問題を倫理委員会で話し合う。本人の意思の手掛かりとなるものを探し出し、記録に残す」

鈴木「インフォームド・コンセントの延長でインフォームド・アセントというものがある。意思決定能力がなくても説明の場に同席する。家族の代諾は家族の思いに従って決めるのではなく、本人の最善の利益に従って決めなければならない。医療の現場では代諾の場合に本人を無視して決めてしまう問題がある」


林田医療裁判の公開質問状65医療事故と命の尊厳

公開質問状54医療基本法

公開質問状39医療基本法フォーラム

医療基本法とプロフェッショナリズム

医療事故といのちの尊厳

医療基本法の制定に向けた院内集会

医療基本法からみた現行医療制度の問題点

医療基本法と患者・医療従事者の権利

医療安全の推進は医療基本法が土台に




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