東京消防庁に蘇生中止方針に対して要請
東京消防庁「第33期東京消防庁救急業務懇話会答申」の蘇生中止方針に対して、2019年3月7日に林田医療裁判の経験に基づく要請文を提出しました。
平成31年3月7日
東京消防庁 第33期東京消防庁救急業務懇話会 御中
企画調整部広報課都民の声係 様
要 請 書
林田医療裁判原告 林田 悦子
上記代理人 弁護士 新宅 正雄
同 萩尾 健太
貴懇話会が2019年2月12日に公表された救急隊による蘇生を中止する旨の答申に関して要請いたします。
1 林田医療裁判は、入院中の患者の長男が患者の経鼻経管栄養の流入速度を医師の許可なく勝手に速めた上、延命につながる治療を全て拒否する旨伝え、これに従った病院は点滴を中止し、日中の酸素マスクもせず、毎日のようにお見舞いに通っていた長女には相談も説明もしなかったことについて、長女が原告となり、病院と長男夫婦の責任を追及した裁判です。
2 答申では、心配停止の患者本人が事前に書面に残していたり家族と話したりして心肺蘇生を望んでいないことが分かった場合は、①患者のかかりつけの医師に連絡し、かかりつけ医師が了承し、②家族が同意書に署名すれば蘇生や病院への搬送を中止できるとし、蘇生を中止した経緯を記録に残すようにする、③かかりつけ医師に連絡を取れない場合など要件を満たさない場合は蘇生する、との制度を提言しました。
答申が特定の家族の意向だけで蘇生を中止せず、かかりつけ医師の了承、家族の同意という要件を課し、蘇生を中止した経緯を記録に残すとしたことは評価します。また、かかりつけ医師に連絡を取れない場合など要件を満たさない場合は蘇生するとしたことは、原則が蘇生であるという立場を示すもので、これも評価します。
3 しかし、②家族が同意書に署名すれば蘇生や病院への搬送を中止できるようにするとの点は改善の余地があると思います。特定の家族の意見や医師の理念だけで蘇生が中止されてしまう危険があることを強く懸念するからです。
林田医療裁判では、長女は母親の死から2年後にカルテを見て初めて治療が中止されたことを知りました。医療記録には「長男は延命につながる治療すべて拒否、現在DIVで維持しているのも好ましく思っていない」とあり、「本日にてDIV(点滴)終了」と書かれていました。このように、医療現場では特定の家族をキーパーソンとし、キーパーソンの意見だけで治療方針が決められてしまうことがあります。また、高齢者への過少医療が問題提起されています。しかも、かかりつけ医師の了承がどこまで患者本人の利益を代弁できるものか疑問があります。
4 それだけに、(かかりつけ医師の了承に加えて)②家族が同意書に署名すれば蘇生や病院への搬送を中止できるようにする、との点は、次のように改定されるよう要請いたします。
②家族全員が同意書に署名すれば蘇生や病院への搬送を中止できる。但し、判断能力のある18歳以上の家族全員の署名が得られない場合は除く。
ご検討をお願いいたします。さらにその検討結果につきご連絡頂きたくお願い申上げます。
以上
この3月7日は消防記念日及び東京消防庁開設記念日です。1948年3月7日に消防組織法が施行されたことに由来します。これによって消防は明治憲法下の警察の管轄から独立し、市町村消防を原則とする自治体消防となりました。