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林田医療裁判と情報の非対称性

  • 執筆者の写真: 林田医療裁判
    林田医療裁判
  • 4月26日
  • 読了時間: 5分

患者の権利法をつくる会第13回医療基本法学習会「氾濫する医療情報をどう受け止めるか」ではDisease Mongering(病気の押し売り)や情報の非対称性など消費者問題の視点で議論された。


林田医療裁判でも情報の非対称性Information asymmetryが大きな影響を与えた。林田医療裁判は、入院中の高齢患者の死亡に対して、患者の長女が長男夫婦および病院を訴えた医療訴訟である。林田医療裁判では、高齢者医療のあり方、患者の自己決定権、尊厳が争点となった。林田医療裁判は、医療現場における情報の非対称性の解消と、患者中心の医療の実現を問うている。


情報の非対称性は、取引や関係性において一方の当事者が他方よりも多くの情報を持っている状況を指す。医療では患者と医療従事者の間に圧倒的な情報格差が存在する。医師や医療機関(情報優位側)が専門知識や患者の治療に関する詳細を持ち、患者や家族(情報劣位側)は限られた情報しか持たないことが一般的である。医療の専門性の高さゆえに患者は医師を無条件に信頼しがちである。しかし、医師がその立場を意識し、丁寧な説明と誠実な対応を怠れば、患者の権利が侵害される。


情報の非対称性の弊害として、逆選択(質の低いサービスが選択される)やモラルハザード(情報優位側が不適切な行動を取る)が発生する危険がある。

逆選択:患者や家族が医療機関の質を適切に評価できない状況を生み、質の低い医療サービスが選択され、「レモン市場」となる。情報の透明性が不足すると、質の高いケアが市場から駆逐される。

モラルハザード:医療提供者が患者や家族の利益よりも自身の利益(例:病院の運営効率や責任回避)を優先する。


診断・治療に関する専門知識の格差

医師をはじめとする医療従事者は、病状、診断、治療法、予後などに関する専門的な知識と経験を豊富に持っている。一方、患者や家族は医学的な知識が乏しく、病状や治療内容について十分な理解が難しい場合がある。この知識の差が、患者が適切な医療選択を行う上での障壁となる。


医療情報の開示と説明の不足

医療機関側が、患者に対して病状や治療方針、起こりうるリスクなどを十分に説明しなかった場合、患者は自身の状況を正確に把握できず、納得のいかないまま治療を受けることになる。医療機関が患者の自己決定権を尊重し、十分な情報提供義務を果たしたかが問題になる。


カルテ等の医療記録の偏在性

患者の病状や治療経過に関する詳細な記録であるカルテは、医療機関によって作成・保管される。患者自身がカルテの内容を十分に理解したり、疑問点を指摘したりすることは、専門知識の不足から困難な場合がある。また、医療機関側がカルテの開示に消極的な場合、患者は自身の医療行為の適否を検証するための重要な情報を得ることができない。林田医療裁判では立正佼成会附属佼成病院の主治医が裁判の終盤の証人尋問でカルテに記載された死因を否定し、情報を一方的に操作した。


情報提供の偏り

医療機関が提供する情報は、必ずしも患者にとって中立かつ客観的なものとは限らない。医療機関の都合の良い情報が強調されたり、危険に関する情報が十分に伝えられなかったりする可能性がある。林田医療裁判では主治医が自己の理念を患者家族にわきまえさせ、治療方針を決定させたと陳述した。

以下は主治医が裁判で提出した陳述書である。「カルテ記載内容の補足として、私は、大事を取りすぎて、意思疎通ができないまま寝たきり状態になるのが最善とは言えない、という主治医の理念をわきまえた上での延命治療拒否だと思いました」(乙A第3号証8頁)。

林田医療裁判では医療機関から家族への情報提供の偏りもあった。長男夫婦にのみ情報提供し、長女には情報提供しなかった。これも一種の情報の非対称性と言える。この偏りは訴訟に至った背景である。


情報の非対称性があることで、患者は自身の権利を十分に主張できず、医療機関の説明を受け入れるしかない危険が生じる。情報の非対称性を是正するためにはInformed Consentの徹底が不可欠である。医療機関側の意識改革と情報開示の徹底が重要となる。


医療機関は患者や家族に対して、患者の状態や治療の選択肢を明確に説明する。専門用語を避け、分かりやすい言葉で丁寧に説明すること、起こりうるリスクについても十分に説明すること、そして患者が自身の医療について主体的に判断できるよう支援する必要がある。

近年はDX(デジタルトランスフォーメーション)による情報共有が進んでいる。患者のカルテや治療方針を家族がリアルタイムで確認できるシステムは情報の非対称性を緩和する一助となる。


林田医療裁判は、医療分野における情報の非対称性が、患者・家族・医療提供者間の信頼関係を損ない、法的対立に至る過程を示す事例である。病院側が持つ情報優位性が、適切な情報開示や説明の欠如によって問題を複雑化した。林田医療裁判はInformed Consentの重要性を浮き彫りにする。情報の非対称性を緩和することで、医療の透明性と倫理性を高め、類似の紛争を防ぐことが期待できる。


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