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医師の働き方改革は患者の権利にどのような影響を与えるか

執筆者の写真: 林田医療裁判林田医療裁判

患者の権利法をつくる会は「医療基本法」制定に向けての学習会シリーズ「「医師の働き方改革」の問題点」を2025年2月1日(日)に開催しました。講師は石井麦生弁護士です。レジュメのタイトルは「医師の働き方改革は患者の権利にどのような影響を与えるか」です。林田医療裁判を考える会も学習会に参加しました。


患者の権利法をつくる会は患者の権利を定めた法律の制定を目指す団体です。患者の権利保障を中心に据えた「医療基本法」の法制化を目指します。消費者基本法や教育基本法など特定分野の根幹になる法律として基本法が存在します。しかし、日本では未だに医療基本法が存在しません。


労働基準法は週の労働時間の上限を40時間としています。1日8時間労働です。これを超える部分が時間外労働です。使用者は労働者に対して時間外労働を命じることはできません。しかし、労使協定(いわゆる三六協定)を締結すれば時間外労働を命ずることができます。その上限は、月45時間、年360時間です。ただし、臨時的な特別な事情があれば、これを超えた合意が可能です。その上限は、年720時間以内、月100時間未満(年間6か月まで)、複数月平均80時間以内です。

ところが、医師は労働時間が把握されていませんでした。経営側は勤務医に自己犠牲を強いがちで、サービス残業が横行していました。経営者の中には医師は労働者ではないという独自の見解を持つ人があります。医師の長時間労働は患者安全を脅かす危険があります。


新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会報告書は自己犠牲を伴う伝統的な労働慣行の是正を掲げました。

「国民に安心・安全で価値の高い医療を提供するためには、何よりもまず、個々の医療・介護従事者が、制度や組織によって疲弊したり、自己犠牲によって自らの生活や将来を失ったりしてはならない。医療・介護従事者の過重労働が恒常化している状況を直視し、実効的な変革を推進するには、医療・介護分野が『高生産性・高付加価値』構造へと転換することにより、その専門性を高め続けるプロフェッショナリズムの下で、住民・患者の価値を最大化できる『働く人が疲弊しない、財政的にも持続可能なシステム』を確立することが必要である」


医師の働き方改革によって2024年4月から労働時間規制がされるようになりましたが、他の業種と比べて規制は緩いです。勤務医の時間外労働の上限は年960時間、月100時間です。地域医療確保暫定特例水準や集中的技能向上水準に至っては上限が年1860時間、月100時間です。過労死ラインの月80時間を超えています。

当直・宅直(オンコール)・自己研鑽の取り扱いが曖昧です。サービス残業になる危険があります。

宿日直は使用者の指揮命令下にあり、原則として全体が労働時間です。しかし、手待ち時間が長く労働密度が薄いのであれば、例外を認めてもよいとされます。労働基準監督署の許可が必要です。許可によって時間外労働の上限規制において、労働時間としてカウントされます。二次救急病院の中にも許可を受けているところがあります。

甲南医療センターの医師自殺ケースでは、労働災害と認定されましたが、センターは「出勤している時間全てが労働時間ではなく、自己研鑽や休憩も含まれる」と反論しました。


結局、医師とそれ以外の労働者のダブルスタンダードになる危険があります。日本労働弁護団「「医師の働き方改革に関する検討会」報告書に対する意見書」は以下のように批判します。

「病院勤務医が労働者であることは自明のことであり、医師であることによってそのような過労死ラインを超える労働が許容されることはありえない。通常の労働者と同様の水準による労働時間規制を適用されなければならず、そのための方策を早期に検討すべきである。その検討にあたっては、当事者である病院勤務医はもちろんのこと、当該勤務医を組織する労働組合の意見等を十分に聴取することが必要である」


質疑応答では林田医療裁判を考える会からは以下の質問をした。

「経営者の意識が旧態依然との御説明でした。病院の人事部門の意識はどうでしょうか。経営者の言いなりなのか、逆に経営者に悪智恵を付ける側なのか、経営者に物申すこともあるかです」


次回勉強会は4月20日「医療情報の真偽の見分け方」を予定しています。


以下は感想です。過酷な労働をなくすという良い目的を実現するために作られた制度であるが、形式的な労働時間規制など役に立っておらず、逆に行政のアリバイ作りになっている面があります。医師の働き方の改善を求める側から批判される点が、ACP; Advanced Care Planningの議論と重なります。ACPも患者の自己決定権と目的は良いものであるが、強いられた自己決定権が出てくると批判されます。


「医師の働き方改革」の問題点

医師の働き方改革について

医療従事者の労働問題

公立福生病院パワハラ訴訟で損害賠償

佼成病院と福生病院の労働問題

4・11東京福祉大学のハラスメント問題を問う集会


日本労働弁護団「「医師の働き方改革に関する検討会」報告書に対する意見書」
日本労働弁護団「「医師の働き方改革に関する検討会」報告書に対する意見書」

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