医療における同意と親密な関係性
- 林田医療裁判

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中山茂樹「医療における同意と親密な関係性―― 憲法上の「個人の尊重」から (1)――」産大法学58巻3号(2024年)は、医療上の意思決定において、家族等の親密な関係性にある者が関与することの法的な意義について、憲法学の観点から検討した論文です。論文は、患者の自己決定を尊重し、同意能力の有無にかかわらず適正なプロセスを通じて本人の最善利益を発見することの重要性を強調します。
「患者の自己決定の能力が十分ある/ないと見られる場合いずれにせよ、治療行為の実体的目標としての「本人の最善利益」は、本人の参加を含む適正なプロセスで発見すべきものである」(85頁)
「患者は (少なくとも成人については)同意能力を有すると推定してその自己決定を支援して処遇すべきであるし、本人の同意が困難である場合には、他の方法をとって、手続的正当性を満たすべきである。たとえば、イギリス 2005 年意思決定能力法は、例外的状況において必要最小限の範囲内でのみ「代行決定」(他者による決定)を認めるが、「手続的正当性」が徹底的に追及され、特に本人を最大限に関与させることが強く要求されたものとなっていることが紹介されており、参考にしうるものであろう」(92頁)
論文は家族の意向が、本人の最善利益を必ずしも代表するものではない可能性を考慮します。この考え方は、安易に家族の代諾に依存することに警鐘を鳴らします。
●林田医療裁判における問題点
論文は手続きの正当性を徹底的に追求する姿勢を示しています。この論文の立場からすると、病院が一方的に特定の患者家族をキーパーソンと選定し、他の家族への確認なしに医療同意を代行決定した林田医療裁判は、手続きの正当性に問題があると言えます。
林田医療裁判は、入院中に亡くなった高齢女性の長女が、長男夫婦と病院を訴えた裁判です。高齢者医療における自己決定権、尊厳死、そして看取りのあり方について問題を提起しました。林田医療裁判ではキーパーソンの特定の患者家族が医療同意を代行決定しました。
「「Y2は…延命につながる全ての治療を拒否した」「Y2……は高度医療を拒否した」ことを事実として認定していることからは、裁判所はY2(すなわち「キーパーソン」を、患者本人の意思を推定するものではなく、家族を代表してA(注:患者)に代わって治療に同意(あるいは治療を拒否)する者として捉えているとも考えられる」(小林真紀「家族間における延命措置の葛藤」甲斐克則、手嶋豊編『医事法判例百選 第3版』有斐閣、2022年、201頁)
病院が慣習的に行う「キーパーソン」選定は、家族の代表者として同意を代行させる便宜的な手法です。しかし、これは手続的正当性を欠く危険があります。特定の家族の意向は、患者の意思や他の家族の意見を反映しているとは限りません。キーパーソンの代諾は、手続きの透明性や患者本人の意思を最大限に尊重するという観点から問題視できます。
●患者本人の意思の軽視
患者本人の意思表示が困難であったとしても、その意思を最大限に推測し、尊重する努力が不可欠です。しかし、林田医療裁判ではキーパーソンの判断が優先され、患者本人の意思を探索する手続きが不十分と言えます。
●家族の多様な関係性の無視
家族の内部には、異なる考えや価値観が存在し得ます。単一の代表者で一括りにできるものではありません。病院が単独でキーパーソンを決め、他の家族の意見を確認しなかったことは、家族間の対立を激化させ、手続きの透明性を損ないました。
●医療従事者の役割
医療従事者には、患者の自己決定を支援し、同意プロセスにおいて公正な手続きを保障する責任があります。しかし、林田医療裁判では、病院が一方的な判断に基づき、特定の家族の意見を代行決定として受け入れました。このような医療現場の慣行を見直し、より患者中心で、手続きの正当性を担保する仕組みを構築する必要性があります。
●プロセスの構築
論文は患者本人や複数の家族の意見をどのように取り入れ、より公平で透明性の高い決定プロセスを構築するかという重要な課題を提起します。患者の意思を最大限尊重し、家族の多様な意見を公平に聴取するプロセスの構築が求められます。具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
第一に話し合いプロセスの標準化です。複数の家族が関わる場合に、医療者が介入し、公平な立場で話し合いを促す手順を確立します。
第二に多職種チームによる意思決定支援です。医療ソーシャルワーカーや倫理委員会が関与し、患者や家族の意思決定を多角的に支援する体制を整えます。
医療における同意と親密な関係性 : 憲法上の「個人の尊重」から(1)
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