林田医療裁判の公開質問状76日本国憲法
- 林田医療裁判
- 3 時間前
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連休最終日は雨降りの肌寒い一日でした。皆様いかがお過ごしでしょうか。
杏林大学医学部付属杉並病院(旧立正佼成会附属佼成病院)へ76回目の公開質問状を送付しました。
5月3日に憲法記念日に合わせて日本国憲法と林田医療裁判を考え、議論致しました。
憲法13条と自己決定権、憲法25条と医療の質について言及しています。ご覧いただければ幸いです。
季節の変わり目です。気温の差がありますのでくれぐれもご自愛ください。
杏林大学医学部付属杉並病院 病院長 市村正一 様
公 開 質 問 状(76) 2025年5月6日
拝啓
若葉の季節になりました。風も心地よく感じられます。院長先生にはお変わりなくお過ごしのこととお喜び申し上げます。76回目の公開質問状をご送付致します。
5月3日は憲法記念日です。そこで林田医療裁判と日本国憲法について考えました。
林田医療裁判は、日本国憲法の基本的人権の保障に関わる重要な論点を含んでいます。特に、憲法第13条(個人の尊重と幸福追求権)と憲法第25条(生存権と公衆衛生の向上義務)が深く関係しています。
林田医療裁判では、患者の治療方針がキーパーソンと呼ばれる一部の家族の意向によって決定されたことが問題視されています。そこで憲法の趣旨に照らして議論しました。
憲法第13条と自己決定権
憲法第13条は「すべて国民は、個人として尊重される」と定めており、生命・自由・幸福追求の権利を最大限に尊重することを求めています。この条文は、患者が自身の治療方針を決定する権利(自己決定権)を保障する根拠となります。
そして、自ら意思表明しづらい高齢患者の自己決定権が適切に尊重されたかどうかが重要な争点になると考えます。患者の自己決定権と尊厳は、医療提供の核心であり、憲法13条に基づき最大限尊重されるべきです。
この権利は一身専属権であり、他人が代わりに行使できるものではありません。「KP(注:キーパーソン)の同意の性質は,KPが患者に当該医療行為を受けさせたいか否かではなく,本人であれば当該医療行為を望むかどうか推測した同意であるべきである。もっとも医師が KP に対し,患者の意思推定の観点に誘導して説明しなければ,KP 固有の意思で選択がなされて本人と利益が相反するおそれがある」(肥田あゆみ、井藤佳恵「臨床現場から考える医療同意権―臨床医を対象としたアンケート調査からの考察―」臨床倫理No.12、2024年、53頁)。公開質問の二番目の「複数人の家族の意見から本人の意思を推定する取り組み」が重要になります。
憲法第25条と医療の質
憲法第25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定し、国が社会福祉・社会保障・公衆衛生の向上に努める義務を負うことを明記しています。この条文は、患者が適切な医療を受ける権利を保障するものと解釈されます。適切な医療提供は、憲法25条の生存権保障の一環として医療機関と国の責任です。林田医療裁判では、病院側の医療提供のあり方が問われており、憲法上の生存権との関係が議論されました。
ここには安全な医療を受ける権利も含まれます。公開質問の一番目の経管栄養の不正操作の予防や検知も対策になります。
医療機関の責務と憲法の適用
憲法第三章の規定は、基本的に国と個人の関係を規律するものですが、医療機関のように国家資格を持つ専門職が関与する場合、憲法の人権規定が適用されるべきだとする見解もあります。特に、患者の安全確保や医療の質の向上は、憲法の理念に基づくべきだと考えられています。
林田医療裁判は、高齢者医療、自己決定権、尊厳といった問題を通じて、日本国憲法の基本的人権を問い直す重要な事例です。個別の事件を超えて現代日本の医療と人権保障のあり方を問う契機となるでしょう。憲法の理念を踏まえ、患者中心の医療システム構築が求められます。
いつものように第1回公開質問状を以下に記載しますのでご回答をお寄せ下さい。この質問状は、ご回答の有無に関わらず、ネット上に公開して医療者と市民が共に議論を深める良い機会になることを願っています。
敬具
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公 開 質 問 状(2019年6月30日 第1回)
第1 質問事項
1.患者の家族の中の悪意ある人物により、経管栄養が操作されるリスクに対して、その予防や検知の対策を採っていますか。採っている場合、その具体的内容を教えてください。
2.複数人の家族の意見から本人の意思を推定する取り組み内容を教えてください。
3.「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の強調する繰り返しの意思確認を実現するために取り組みをしていますか。している場合、その具体的内容を教えてください。
第2 質問の趣旨
1 林田医療裁判では、経管栄養の管理や治療中止の意思決定のあり方が問われました。林田医療裁判の提起後には、点滴の管理が問題になった大口病院の連続点滴中毒死事件や自己決定権が問題になった公立福生病院の人工透析治療中止問題が起きました。また、「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」は2018年3月に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に改定され、意思確認を繰り返し確認することが求められました。林田医療裁判において問われた争点は「終了」しているのではなく、現代日本の医療の問題と重なり問われ続けています。
2 そこで、私達は林田医療裁判を経験し又その経緯を知った者として、広く医療の現状と課題について考察し、患者の安全と幸せは何かを探求しています。そして、このような問題は広く社会に公開して議論を深めていくことが、適切な医療を進める上で不可欠であると考えています。とりわけ貴病院は、経管栄養の管理や治療中止の意思決定の問題について直面された医療機関として、適切な医療を進めるためのご意見をお寄せになることが道義的にも期待されるところであると思われます。
3 従いまして、上記の質問事項に回答をお寄せ頂けますよう要請いたします。この質問と貴病院の回答はネット上に公開することを予定しています。このような公開の議論の場により、医療機関と患者ないし多くの市民の方が意見を交わし、相互の認識と理解を深め、適切な医療を進める一助にしたいと考えています。この公開質問状の趣旨をご理解いただき、上記の質問事項に回答を寄せていただきたい、と切に要望します。ご回答を連絡先まで郵送してください。回答締切日を二週間以内にお願い致します。
以上
人生の最終段階における医療と法
戦後80年目の憲法記念日と林田医療裁判

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