家族の一存であなたの治療は決まる?「高齢者の同意」の裏側
- 林田医療裁判

- 2 時間前
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患者の医療同意は、本当に患者の意思を反映したものですか?高齢化が進む現代、この問いは他人事ではありません。一歩間違えれば、あなたの「生き方」や「死に方」が、医師や特定の家族の「理念」で決められてしまうかもしれません。
●「同意能力」という名のブラックボックス
福田八寿絵「高齢者の同意能力評価 患者の保護と自己決定の尊重」生命倫理24巻1号(2014年)は、高齢者の医療同意能力をどう評価するかというデリケートな問題に切り込みます。論文は同意能力評価の基準が明快ではないという現実を指摘します。
「患者の同意能力の有無の基準値をどこに設定するのか、医療専門職の裁量に委ねられる場合についても十分な説明責任を果たすことが求められる」(151頁)
医療者が「この人は判断能力がない」と判断するボーダーラインは曖昧です。その上に、その判断が医療専門職の裁量に委ねられ、最悪の場合、都合よく操作される危険すらあります。
●「主治医の理念」が、あなたの命を決めるのか?
林田医療裁判における主治医の陳述は、「延命治療拒否」が患者本人の意思ではなく、「主治医の理念」に基づいていたという衝撃的な現実を浮き彫りにしました。立正佼成会附属佼成病院(当時)の主治医は以下の陳述をしました。
「カルテ記載内容の補足として、私は、大事を取りすぎて、意思疎通ができないまま寝たきり状態になるのが最善とは言えない、という主治医の理念をわきまえた上での延命治療拒否だと思いました」(乙A第3号証8頁)。
この発言から浮かび上がるものは、「延命治療拒否」が患者本人の意思ではなく、「主治医の理念」に基づいているという恐ろしい現実です。そして、特定の家族(キーパーソン)が、その医師の理念を「わきまえた」ことが、治療方針の根拠とされました。
これは、患者に十分な情報を伝え、自分自身で決定してもらうという「説明責任(インフォームド・コンセント)」の理念とはかけ離れています。医療従事者が患者の意思決定を支配するパターナリズム(父権主義)の典型例と言えるでしょう。
●命の判断は「特定の誰か」に任せてはいけない
論文の結論は、非常に重要な示唆を与えています。「同意能力評価ツールでのみ患者の同意能力が評価されるのではなく、患者の価値観をよく知る人たちの評価、MMSEなどの認知機能評価、治療にかかわっている医師や薬剤師、看護師、ソーシャルワーカーなど 医療チームの評価を総合的に取り入れた形での評価が望ましいといえよう」(151頁)
多角的評価は特定の個人の主観的な判断に偏る危険を減らすことができます。林田医療裁判の根本的な問題は、この多角的な評価が欠けていた点にあります。
第一に近親者が単数(キーパーソン)でした。論文は「患者の価値観をよく知る人たち」と複数人を求めています。
これに対して林田医療裁判では病院が患者の長男をキーパーソンとし、キーパーソンとしか話しませんでした。単一の人物に依存すると、患者の多様な価値観や状況が見落とされる危険があります。また、相続など患者とキーパーソンの利益相反もあります。
第二に医師一人の決定でした。多職種の連携(医療チーム)が欠けていました。林田医療裁判を取り上げたシンポジウムでも以下の指摘がなされました。
「現在のポイントとしては多職種が関わったかというのが非常に大事で、そうすれば医師が気付かないところも看護師さんならば常日頃家族とも会っていますし、そういうことが分かっていた可能性もあるということで、やはりここから見えてくるのは医師が1人で決めているような書き方なので、この事例はそこが欠けているのではないかなと思います」(「第12回 医療界と法曹界の相互理解のためのシンポジウム」判例タイムズ1475号14頁以下)
林田医療裁判の事例は、医師一人の判断や一人のキーパーソンの意見が治療方針に大きな影響を与えうる危険性を示しています。このような状況を防ぐためには、多職種連携によるチーム医療が重要となります。看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなど、様々な立場の専門家が患者に関わることで、医師が見落としがちな患者の細かな状況や家族間の力関係を把握し、より客観的で患者の真の利益に沿った医療判断が可能になります。
あなたの命の尊厳を守るためには、キーパーソン制度の危うさを知り、多角的な評価と説明責任を医療側に求める必要があります。この論文が、そして林田医療裁判が教えてくれる最も大切な教訓は「自分の人生を、医師の理念や特定の家族の都合で決めさせてはいけない」ことです。医療側と患者側の双方が、より透明性の高い、患者の意思を最大限に尊重する仕組みを構築していくことが求められています。
高齢者の同意能力評価 : 患者の保護と自己決定の尊重
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