臓器移植法を問い直す市民ネットワークは2025年2月8日(土)午後2時から4時40分まで第21回市民講座「京都ALS嘱託殺人事件と、自己決定による死の後にくるもの」を東京都江東区の亀戸文化センター(カメリアプラザ)とオンライン(Zoom)で開催した。林田医療裁判を考える会も参加した。
講師は渡邉琢さん(わたなべ たく、日本自立生活センター事務局員、介助者、介助コーディネーター)。琢の字は正式には「つくり」に点の入る12画のJIS第3水準の漢字である。大雪の影響で新幹線が遅れたため、前半は事務局が原稿を代読した。
大久保愉一医師と山本直樹医師は筋萎縮性側索硬化症ALS; amyotrophic lateral sclerosis患者に対して睡眠薬などに使うバルビツール酸系の薬物を投与して殺害した。医者が患者を殺したとして大きな衝撃を与えた。以下の事件も問われた。
・精神障がいの高齢者を2011年3月5日に医師の立場や知識を悪用しつつ殺害した殺人罪
・スイスで医師介助自殺を望む難病患者に対して、その自殺を幇助するためにメディカルレポートを偽造した有印公文書偽造罪
これらの事件はTwitterのつながりから起きた。Twitterにグループがある。大久保医師は鑑定医より自閉スペクトラム症ASD; Autism Spectrum Disorderと診断された。自身も注意欠如・多動性障害ADHD; Attention-Deficit Hyperactivity Disorderの自覚があった。市民講座では「医療の世界で活躍できないため、死にたい人を死なせることにやりがいを感じた」との評価が紹介された。
刑事裁判で被告人は憲法13条に基づく死の自己決定権を主張したが、京都地裁判決は「自己決定権・幸福追求権・個人の尊厳いずれも個人が生存していることが前提」と退けた。死は自己決定の主体を否定することになる。
京都地裁判決は患者からの嘱託を受けて殺害に及んだ場合に、社会的相当性が認められて可罰的違法性がないとして嘱託殺人罪に問うことが相当ではないと評価するために最低限必要な要件を提示した。
その要件の一つは患者自身の依頼を受けることである。患者以外の人物が決めていい問題ではない点は林田医療裁判の参考になる。林田医療裁判では患者の長男が「延命につながる治療を全て拒否。酸素吸入を拒否」した。
川口有美子さんも以下のコメントし、家族や医者が勝手に決定して死なせてしまう危険を指摘した。
「直面している問題として、意思の確認ができない人のいのちを守ることが極めて難しくなってきています。すなわち「従前の意思」「最善の利益」「推定意思」と私たちは格闘しなければならなくなるでしょう」
渡邉さんは以下のように指摘した。死の自己決定は周囲に都合がいい。本人の責任で死んでもらえれば周りの負担にならない。個人モデル過ぎる。社会モデルで考えたい。
臓器移植法を問い直す市民ネットワークでは以下の市民講座を開催してきた。
第20回市民講座「【座談会】 教育現場で語られる脳死と臓器移植~中学・高校の教員を招いて~」2024年6月23日
第19回市民講座「「わたしはここにいます」“超重症児”のわたしらしい生き方の実現のために」2024年2月3日
第18回市民講座「命は誰のものか―ACPをめぐって」2023年5月14日
第17回市民講座「加速していく命の線引きと切り捨て」2021年11月4日
京都ALS嘱託殺人事件と、自己決定による死の後にくるもの
臓器移植法を問い直す市民ネットワーク第21回市民講座
脳死臓器提供に伴う、重症患者の救命打ち切りに反対します
臓器移植法を問い直す市民ネットワーク第19回市民講座
「わたしはここにいます」“超重症児”のわたしらしい生き方の実現のために
臓器移植法を問い直す市民ネットワーク第18回市民講座「命は誰のものか」
第18回市民講座「命は誰のものか―ACPをめぐって」
命は誰のものか講演録
加速していく命の線引きと切り捨て

Comments