治療の選択は誰が決めるべきか?
- 林田医療裁判
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更新日:2 時間前
8年前です。林田医療裁判(平成28年(ネ)第5668号)は、患者の自己決定権をめぐる大きな議論を呼びました。東京高等裁判所は平成29年7月31日、控訴を棄却。しかし、その判決は、医療現場や家族の関与のあり方について、多くの疑問を残しました。
この裁判が注目された理由は、「家族はどこまで患者の治療方針を決定できるのか?」という根本的な問題に踏み込んだからです。患者本人の意思を尊重する「自己決定権」は、本人だけが持つかけがえのない権利(=一身専属性)です。つまり、たとえ家族でも代わりに行使することはできないものです。
「自己決定権は、一身専属性の権利であるから、厳格に解釈すれば、家族であっても本人に代わって行使できるものではない」(小林真紀「家族間における延命措置の葛藤」甲斐克則、手嶋豊編『医事法判例百選 第3版』有斐閣、2022年、201頁)
「自己の身体に最終的な処分を行うための自己決定を行える法益を持つ者は、患者本人であるため、医療行為における同意権限を持つ者は、原則として患者本人となる」(石田瞳「同意能力を欠く患者の医療同意」千葉大学人文社会科学研究第29号、2014年、92頁)
ところが判決では、長男が「延命につながるすべての治療」や「高度医療」を拒否したことが事実と認定されています。裁判所は、長男の意思を患者のものと推定するのではなく、彼を「家族代表として患者に代わって治療方針を決める存在」と見なしました。この判断は、患者本人の権利を守るべき「一身専属権」の原則から大きく逸脱していると言えるでしょう。
「KP(注:キーパーソン)の同意の性質は,KPが患者に当該医療行為を受けさせたいか否かではなく,本人であれば当該医療行為を望むかどうか推測した同意であるべきである。もっとも医師が KP に対し,患者の意思推定の観点に誘導して説明しなければ,KP 固有の意思で選択がなされて本人と利益が相反するおそれがある」(肥田あゆみ、井藤佳恵「臨床現場から考える医療同意権―臨床医を対象としたアンケート調査からの考察―」臨床倫理No.12、2024年、53頁)
「近親者の意見もまた重視されることになるが、それは同意の推定の根拠、すなわち、患者の意思のあり方を推測する一証拠として考慮されるのであり、近親者の(生の事実としての)現実の意思がそのまま意味をもつのではない」(井田良「治療中止をめぐって 立法による問題解決は可能か」判例時報2373号111頁)。
林田医療裁判は、私たちが医療を受けるとき、そして家族とどう向き合うかを考える大切なきっかけになります。

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