臨床現場から考える医療同意権
- 林田医療裁判
- 2 日前
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肥田あゆみ、井藤佳恵「臨床現場から考える医療同意権―臨床医を対象としたアンケート調査からの考察―」臨床倫理No.12(2024年)でキーパーソンKey Person; KPが取り上げられました。臨床倫理は日本臨床倫理学会の機関誌です。この論文では医療現場での「同意」のあり方に驚くべき実態が明らかになりました。
もし、病院で手術や治療の説明を受けるとき、あなたではなくキーパーソンとされた特定の家族が代わりに「同意」していたとしたら?私たちは日々、病院でInformed Consentト(説明と同意)という言葉に触れています。しかしその裏側で、本当に「本人の意志」が尊重されているのか?そのような深い疑問を投げかける調査結果です。
医療同意権って何? あなたの権利が知られていない!?
医療同意権とは、治療やケアについて自分で決める権利のこと。医療の現場では、患者が受ける治療について本人の同意が不可欠です。医療同意権は日本国憲法第13条で保障された、あなただけの大切な権利(一身専属権)です。医療同意権は、あなたの人生をあなたらしく生きるための大切な権利です。あなたの人生の舵は、あなたが握ります。
ところが、日本の多くの医療従事者は一身専属権であることを十分に理解していません。
その結果、日本の医療現場では、実は「キーパーソン(Key Person; KP)」とされた人物の意思が本人の意思よりも優先されることが多いという問題が指摘されています。
医師のアンケート結果が示す驚きの事実
「臨床現場から考える医療同意権」のアンケート調査は医療現場のリアルを描き出しています。民間病院の常勤医師のうち、68%が「患者本人の認知機能がある程度保たれていたとしても、説明室に呼ぶことが困難であったり、同意書にサインをしてもらうのが難しかったりするために、本人には説明せず家族からのみ同意を得た経験がありますか」との質問に「ある」と回答しました(59頁)。この数字は、医療同意が形式的なものに陥っている危うさを如実に示しています。
「過半数の医師は本人よりも KPを優先していることが明らかとなった。KP が代諾する場合,本人の意思を推測してこれを代弁することが必要である。医師は,KP 固有の意思で選択してもらうのではなく,患者の意思推定という視点に誘導して説明することが肝要である」(61頁)
キーパーソンの意思≠患者本人の意思
多くの医師は「キーパーソンの同意で十分」と判断してしまいがちです。背景にはキーパーソンへの説明の方が手続きは簡便という発想があります。でも、これって本当にあなたの意志を反映していると言えるでしょうか?「自分の治療の決断が他人任せになるなんて…」と不安になった方もいるでしょう。あなたが病気で治療を受ける時、自分の意志がきちんと尊重されていると信じたいですよね。
本人の判断能力が低下していても、本人に理解してもらうことが最優先です。
「医療同意権が一身専属権であるという観点からは,本人に残された判断能力に応じて説明し同意を得ることが望ましい」「患者の正当な権利実現のためには医療者側が労を取るのは当然であり,本人に直接説明する機会を提供し,わかりやすく工夫して説明する等,患者の自己決定権ができるかぎり尊重されるよう努めるべきである」(61頁)
この努力は林田医療裁判(平成26年(ワ)第25447号損害賠償請求事件、平成28年(ネ)第5668号損害賠償請求控訴事件)ではなされませんでした。法学的な議論では「患者が意思を表明できない場合はどうするか」という前提となりがちですが、林田医療裁判では患者の意識についても争われました。
キーパーソンが同意する場合も、キーパーソン自身の意思ではなく、「患者の意志を推測して代弁する」ことが求められます。たとえ家族であっても、本人の意思を推測・代弁する立場に徹しなければならなりません。その役割を医療従事者もキーパーソンも理解しているでしょうか。
「KP(注:キーパーソン)の同意の性質は,KPが患者に当該医療行為を受けさせたいか否かではなく,本人であれば当該医療行為を望むかどうか推測した同意であるべきである。もっとも医師が KP に対し,患者の意思推定の観点に誘導して説明しなければ,KP 固有の意思で選択がなされて本人と利益が相反するおそれがある」(53頁)
医師がキーパーソンに「患者さんの視点で考えてください」としっかり説明する姿勢が必要です。医師がキーパーソンの「個人的な意見」をそのまま受け入れてしまったり、医師の理念をキーパーソンに忖度させたりしてはならないものです。
この点は林田医療裁判で批判されました。林田医療裁判の主治医は「カルテ記載内容の補足として、私は、大事を取りすぎて、意思疎通ができないまま寝たきり状態になるのが最善とは言えない、という主治医の理念をわきまえた上での延命治療拒否だと思いました」と陳述しました(乙A第3号証8頁)。
「臨床現場から考える医療同意権」は、私たちに大きな気づきを与えてくれます。
・医療現場では「本人の声」が十分に届いていないかもしれない
・家族が「代理人」になる際も、本人の意志を正確に知っているとは限らない
・医師ですら、医療同意権の本質を十分に理解していない可能性がある
「本人の意志に基づく医療」――それは理想ではなく、医療の基本であるべきです。しかし、現実には、その基本が見落とされている場面がまだまだ多いのです。
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