林田医療裁判の公開質問状82代行意思決定
- 林田医療裁判

- 1 時間前
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秋も深まり文化、芸術に親しむには良い季節となりました。皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。
杏林大学医学部付属杉並病院(旧立正佼成会附属佼成病院)へ82回目の公開質問状を送付しました。
日本の医療現場では、代行意思決定が依然として寝強く残っています。しかし、今や世界では、「代行意思決定の廃止」に向けて動いています。
これは、患者本人の意思意思決定を代行するのではなく患者本人が自らの意思を表明できるように、それを支援する体制こそが真の人権尊重、としています。
ご覧いただければ幸いです。
寒さも増しています。お体をご自愛ください。
杏林大学医学部付属杉並病院 病院長 市村正一 様
公 開 質 問 状(82) 2025年11月4日
拝啓
秋も深まり寒さも増してきました。冬の到来を感じさせるこの頃ですがお変わりございませんでしょうか。82回目の公開質問状をご送付致します。
今回は、世界が「代行意思決定の廃止」に動いていることを学習しました。
「本人の意思を尊重する」― それは医療の基本であり、人としての尊厳の根幹です。けれども現実には、本人不在のまま“誰か”が治療の可否を決めてしまうケースが後を絶ちません。その誰かは、病院が任意に選んだ「キーパーソン」かもしれません。しかし、世界は今、こうした代行意思決定の仕組みに「NO」を突き付けています。
今や世界は「本人中心」の医療を求めています。
患者の権利と尊厳を第一に考える新たな動きが、世界中で広がっています。世界保健機関WHOは画期的なガイダンスを発表しました。WHO, Guidance on community mental health services: Promoting person-centred and rights-based approaches(特定非営利活動法人自律支援センターさぽーと訳「地域精神保健ガイダンス 本人中心で権利に基づくアプローチの促進」)。WHOのガイダンスは「代行意思決定の全面的な廃止」を明確に求めています。
「障害者権利条約は、人々が他の者との平等を基礎として公的、非公的な日々の意思決定を自ら行うことができるように、締約国に対して、他者による代行意思決定制度をすべて撤廃するよう求めています」(28頁)
「代行意思決定及び強制的措置、施設収容は、法的能力行使とコミュニティでの自立生活、その他の人権への支援に置き換えられなければなりません」(198頁)
「後見制度とその他の代行意思決定に関する法律を廃止し、法的能力を承認し、事前計画及び意思と選好の最善の解釈の原則を含む支援付き決定を促進する法律に転換すること」(200頁)
WHOのガイダンスは、すべての医療消費者にとって重要な意味を持ちます。患者が自分の人生の主役であり、医療の選択においてもその意思が尊重されるべきだという「本人中心」のアプローチに基づいています。本人の意思決定を代行するのではなく、本人が自らの意思を表明できるように、それを支援する体制こそが、真の人権尊重です。
日本の医療現場では、代行意思決定が依然として根強く残っています。林田医療裁判の医師は、自身の理念で「患者の意思確認はしない」と述べました。そして貴病院が「キーパーソン」として定めた患者の長男が延命につながる一切の治療を拒否しました。
「「Y2は…延命につながる全ての治療を拒否した」「Y2……は高度医療を拒否した」ことを事実として認定していることからは、裁判所はY2(すなわち「キーパーソン」を、患者本人の意思を推定するものではなく、家族を代表してA(注:患者)に代わって治療に同意(あるいは治療を拒否)する者として捉えているとも考えられる」(小林真紀「家族間における延命措置の葛藤」甲斐克則、手嶋豊編『医事法判例百選 第3版』有斐閣、2022年、201頁)。
この判決は国際的な基準から大きく逸脱しています。本人の意思が確認されないまま、キーパーソンが治療拒否の決定を代行する――それは、本人の権利を奪う行為にほかなりません。患者の尊厳を損なう上に誤った選択を招く危険があります。あなたの人生の重要な決断を、誰かに勝手に決められてしまう。その危険が今の日本の医療には潜んでいます。
とりわけ問題なことは、病院が他の家族への説明もなく、任意に「キーパーソン」を選定してしまうケースです。このような代行意思決定は、本人の意思を無視し、家族間の信頼を損ない、医療の透明性を脅かします。後見制度でさえ、WHOは廃止を求めています。代行ではなく、「支援付き意思決定」――本人の意思と選好を最大限に尊重する新しい法制度への転換が、いま求められているのです。
WHOのガイダンスが示すものは、患者一人ひとりの意思を尊重し、地域社会の中で自立を支える医療の姿です。支援付き意思決定では、患者が自分の価値観や希望に基づいて選択できるよう、必要な情報やサポートが提供されます。このような医療は、単に治療の質を高めるだけでなく、患者の尊厳や自己決定権を守ることで、信頼に基づく医療体験を築きます。市民が望むものは、患者の人生を尊重してくれる医療です。
医療は、命を預ける場であると同時に、尊厳を守る場でもあります。世界の先進諸国に遅れないように、日本の医療から代行意思決定を無くすためには、医療者及び市民が議論を深めてこそ実現できる未来です。「患者中心」「患者の権利」――開かれた医療を進める為には、先ず疑問を持つことから始まります。
私達は、林田医療裁判を経験し又その経緯を知った者として「代行意思決定の廃止」に賛同致します。この質問状はネット上に公開し市民と共に議論を深め学習致します。
いつものように第1回公開質問状を以下に記載します。問題解決には過去に向き合う姿勢と説明・対話が不可欠です。ご意見、ご回答をお寄せ下さいますようお願い申し上げます。
季節の変わり目くれぐれもご自愛ください。
敬具
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公 開 質 問 状(2019年6月30日 第1回)
第1 質問事項
1.患者の家族の中の悪意ある人物により、経管栄養が操作されるリスクに対して、その予防や検知の対策を採っていますか。採っている場合、その具体的内容を教えてください。
2.複数人の家族の意見から本人の意思を推定する取り組み内容を教えてください。
3.「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の強調する繰り返しの意思確認を実現するために取り組みをしていますか。している場合、その具体的内容を教えてください。
第2 質問の趣旨
1 林田医療裁判では、経管栄養の管理や治療中止の意思決定のあり方が問われました。林田医療裁判の提起後には、点滴の管理が問題になった大口病院の連続点滴中毒死事件や自己決定権が問題になった公立福生病院の人工透析治療中止問題が起きました。また、「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」は2018年3月に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に改定され、意思確認を繰り返し確認することが求められました。林田医療裁判において問われた争点は「終了」しているのではなく、現代日本の医療の問題と重なり問われ続けています。
2 そこで、私達は林田医療裁判を経験し又その経緯を知った者として、広く医療の現状と課題について考察し、患者の安全と幸せは何かを探求しています。そして、このような問題は広く社会に公開して議論を深めていくことが、適切な医療を進める上で不可欠であると考えています。とりわけ貴病院は、経管栄養の管理や治療中止の意思決定の問題について直面された医療機関として、適切な医療を進めるためのご意見をお寄せになることが道義的にも期待されるところであると思われます。
3 従いまして、上記の質問事項に回答をお寄せ頂けますよう要請いたします。この質問と貴病院の回答はネット上に公開することを予定しています。このような公開の議論の場により、医療機関と患者ないし多くの市民の方が意見を交わし、相互の認識と理解を深め、適切な医療を進める一助にしたいと考えています。この公開質問状の趣旨をご理解いただき、上記の質問事項に回答を寄せていただきたい、と切に要望します。ご回答を連絡先まで郵送してください。回答締切日を二週間以内にお願い致します。




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