多能性細胞(ES細胞、iPS細胞)からいのちを生み出せるのか?
- 林田医療裁判
- 29 分前
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ヒトのES細胞(胚性幹細胞)の培養に成功したのは1998年のことです。しかし、受精卵を破壊しないと生み出せないES細胞の研究や利用には、倫理的な懸念がつきまとっていました。同じく多能性細胞でありながら、ふつうの細胞からでも作成できるのがiPS細胞(人工多能性細胞)です。日本の山中伸弥教授によって、2006年にマウスのiPS細胞が、続いて2007年にはヒトのiPS細胞が作成されました。山中教授がこれによってノーベル生物学賞を受賞したのは2012年のことです。
ヒトのES細胞やiPS細胞を用いてさまざまな研究が進められており、新たに多くの病気の治療法が前進する可能性があります。この面での研究の進展は著しいものがあり、これまでは治療が困難だった疾患の治療に向けて研究がどこまで進んでいるのかについても大いに学びたいところです。しかし、それと同時に多能性細胞の研究や利用によって、人間らしいいのちのあり方が変わってしまう可能性についても考えなくてはなりません。
多能性細胞から生殖細胞を生成させる研究も進められています。京都大学高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi)の斎藤通紀教授らは、すでに 2012 年にマウスの iPS 細胞を利用して卵子を作り、通常の精子と体外受精させてマウスを誕生させることに世界で初めて成功しています。
その後、2015年にはヒトのiPS細胞に薬剤などを加えて「初期中胚葉様細胞」と呼ばれる細胞を作製。さらにこの細胞にある種のタンパク質を作用させて始原生殖細胞を高い効率でつくることに成功し、同年7月に米科学誌「セル・ステム・セル」に発表しました。卵原細胞もヒトのiPS細胞からつくることに成功し、18年9月に米科学誌「サイエンス」に発表して注目を浴びています。しかし、できた卵原細胞は少なかったのです。
斎藤教授らの研究グループは2024年になって、約2カ月で卵原細胞と前精原細胞を作り出すことに成功しました。さらに染色体数を安定させ続けるなどの条件下で約4カ月培養を続けると細胞数は100億倍増えたということです。今回の研究成果で大量に前精原細胞や卵原細胞を作製できる手法が確立したのです。大量にできることで実験が飛躍的にしやすくなりました。このため生殖細胞研究が進展すると期待されています。
ヒトの卵原細胞などの生殖細胞をつくる研究は2010年に国(文部科学省)の指針が改正されて可能になりましたが、ヒトiPS細胞やES細胞からできた卵子と精子で受精卵やヒト胚を作製することは引き続き禁止されています。
では、こうした研究にどのような意義があり、また倫理上の懸念があるのはどのようなことなのでしょうか。今回は、斎藤教授とともに生命倫理研究の最前線におられる加藤和人教授にお話を伺い、この問題について考えていきたいと思います。
ゲノム問題検討会議では2024年に多能性細胞を用いて脳オルガノイドを作成する研究の現状と、その倫理的問題についてセミナーを行いました。今回はそれに続くセミナーで、現代生命科学の可能性とその倫理的問題を問うセミナーシリーズの第2弾となります。
多くの方々のご参加を歓迎いたします。
日時 2025年8月21日(木)
13 時30分~16時30分 受付開始13時より
■講師:斎藤通紀さん 京都大学高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi) 拠点長
生殖細胞発生機構の解明とその試験管内再構成
加藤和人さん 大阪大学大学院医学系研究科教授
IVG 研究の倫理的・社会的課題について
■コメンテーター 天笠啓祐さん ジャーナリスト
河田昌東さん 分子生物学者
■司会 島薗進さん 東京大学名誉教授
■参加費Zoom代 1000円 後日期間限定の逃がし発信あります。
■主催:ゲノム問題検討会議
冤罪に利用された科学者の知見 大川原化工機事件を問う
ゲノム問題検討会議Zoomセミナー「ゲノム編集技術の新たな展開とヒト化動物」
脳科学研究と人文社会科学の接点領域にある緊張と可能性
ゲノム問題検討会議Zoomセミナー「重い障害の受容と生命の選別」2022/03/12

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