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死刑執行再審としての飯塚事件の特異性

  • 執筆者の写真: 林田医療裁判
    林田医療裁判
  • 3 日前
  • 読了時間: 7分

徳田靖之弁護士活動56周年記念連続講演会第7回「飯塚事件・菊池事件」から飯塚事件の報告である。飯塚事件は、1992年2月20日に、福岡県飯塚市で発生した、通学中の小学一年生2名を誘拐し、わいせつ行為の上で殺害し、遺体を遺棄した事件である。

犯人として逮捕された久間さんは、一貫して無実を訴えたが、死刑判決が確定。再審準備中に死刑が執行された。死刑判決確定後に再審請求を依頼された。もっと早く再審請求をしていたらと悔やまれる。


経緯の特異性

飯塚事件の死刑執行は異様である。確定して僅か2年で執行された。

2006年10月8日、死刑判決確定

再審の準備開始

2008年10月17日、足利事件で東京高裁が職権でDNA鑑定を採用と報道

2008年10月24日 死刑執行上申、即日決裁

2008年10月28日 死刑執行


足利事件と飯塚事件

同じ時期に同じ技官によって、同じ方法(MCT118型)でDNA鑑定がなされ、菅家さんも久間さんも同じ16-26型と鑑定されていた。

法務大臣への上申に際して、全面否認事件であること、再審準備中であることを説明せず、即日決裁された。記者会見で法務大臣は、全面否認事件であること、再審準備中であることを知らなかった。

再審無罪を避けるために速やかに死刑執行したと思わざるを得ない経緯である。


第一次再審で明らかになった飯塚事件の特異性

刑判決の証拠の柱

①科警研によるMCT118 型DNA鑑定

②遺留品発見現場付近での車両の目撃証言(T証言)

③被害児童を最後に目撃したとの証言(О証言)とその付近での車両の目撃証言


捜査過程における証拠の改ざん、誘導、隠匿の事実

MCT118型DNA鑑定写真の改ざんと犯人特定証拠の隠滅

① 裁判所の指示で取り寄せた鑑定実験写真のネガフィルムによって、証拠写真の改ざんが明らかになった。

② 被害児童の膣内から検出された血液を含んだ綿花の処分ないし隠匿。このため、最新のDNA鑑定による真犯人の特定不能になった。追試のための資料を残さない姿勢は科学的ではない。

T証言形成過程には「犯罪的」というべき特異性がある。Tの初期供述は、3月2日の「紺色ワゴン車」のみ。

Tの最初の調書は、1992年3月9日付け(作成者大坪警察官)で、以下の内容。

① トヨタやニッサンではない。

② ラインはなかった。

③ 後輪ダブルタイヤ

④ 窓にフィルムが貼ってあった

検察官が開示した報告書の別表に、大坪警察官が3月7日に、久間さんの車を見分し「ラインがないこと」を確認していた。目撃者から供述を聞く前に車を見分している。久間さんを犯人と決めつけている。

久間さんの車は、マツダのエストコーストで、車体に黄色の派手なラインがあるのが特徴。ところが、久間さんは購入後、そのラインを消していた。しかし、黄色の派手なラインは消しているが、白い色のラインは残っている。マツダのエストコーストに黄色の派手なラインがあるということを知っていなければ「ラインはなかった」とならない。

Tの実況見分時の指示説明における後輪ダブルタイヤの現認方法は通り過ぎてから振り返って現認した。運転席側の窓ガラスから肘が出た状態で振り返ったとする。しかしながら、実況見分は5月に実施。事件は、厳冬期の山中であり、窓ガラスを開けたまま山道を運転することはありえない。カーブが連続している場所で後ろを振り返ることは考えにくい。

久間さんが車を売却後、押収して見分したところ、後輪ダブルタイヤは、後方8メートル以上離れた地点でないと現認できないことが判明。

Tの新たな供述調書では「後輪が前輪に比べて小さかったので後輪ダブルタイヤと判断した」と変遷した。捜査官に翻弄されている。後輪ダブルタイヤは本人が見た訳ではなく、警察に言わされたものであることが見え見えである。


法廷での警察官の偽証

確定審の控訴審で証人として出廷したF警察官は「Tの供述を経て初めて犯行に使用された車両をマツダボンゴ車と特定した」と証言し、判決はこれをそのまま採用した。


第一次再審における裁判所の判断

(1) 科警研DNA鑑定は信用性が認められない。

(2) T証言の内、後輪ダブルタイヤの部分は、誘導されていないので信用しうる。3月4日の捜査報告書にTが「後輪ダブルタイヤ」と述べている。

(3) 他の情況証拠によって有罪と認定しうる。


第二次再審の新証拠

被害児童を最後に目撃したとされていたО証人の新供述を得た。「私が目撃したのは事件当日ではないのに、警察官に強引に誘導され、調書を作られてしまった」

自己の曖昧な供述のせいで久間さんが死刑にされたという自責の念から、24 年の時間を経て、弁護士事務所に連絡。この新供述によって確定判決の柱の一つが証拠として無意味になった。


事件直後に、犯人と被害児童を目撃したとの木村供述

「誘拐事件との報道を知り、翌日警察に通報し、警察官から事情聴取を受けたが、目撃した車が軽貨物であることを言った途端に調書化されなかった」

「その後久間さんの第1回公判を傍聴したが、目撃した人物は全く別人」


福岡地裁での審理の経過

・木村証人とО証人の尋問の実施

・証拠開示を巡る攻防

大坪警察官の3月7日付捜査報告書の開示要求

検察官「不見当」、裁判所は反応せず

О証人の初期供述に関する証拠の開示

検察官「不見当」⇒ 裁判所「送致文書のリストあるのか」⇒検察官「ある」⇒裁判所「開示勧告」⇒検察官「裁判所には証拠開示を勧告・命令する法的根拠なし」として開示を拒否⇒裁判所反応せず


福岡地裁の決定(2024 年 6 月 15 日)

О新供述は、30年以上昔の出来事に関するものであり、旧供述の方が信用できる。警察官には、虚偽の供述を誘導する動機はない。

※裁判所は、信用性を否定することで新旧証拠の総合評価を回避した。

木村証言は短時間の目撃にすぎず特定性に欠ける。


即時抗告審の開始

10月28日第1回進行協議で裁判所は、検察官に対して以下の2点について証拠開示勧告した。

① О証人、木村証人の初期供出について再度その所在について調査し、存在した場合は提出すること、存在しない場合には、どのような調査を行ったのかについて 12 月 27 日までに文書で説明すること

② 警察から検察官に送致された証拠の目録をありのまま提出すること

検察官の回答は①不存在、②提出しない。

警察には有罪にする証拠は一所懸命収集し、捏造もするが、都合の悪い証拠は保管しない体質がある。


第2回進行協議で裁判所は、検察官に対して、インカメラ(裁判官に対してのみ提示)を勧告した。検察官は応じ、インカメラが行われた。書類目録に初期供述が存在しなかった。

第3回進行協議で弁護人はインカメラの継続による再精査要求


死刑執行事件の再審請求としての特殊性と本件再審開始の意義

死刑制度は残虐である。袴田さんの心身を破壊した。久間さんの命は取り返せない。


死刑判決と再審開始

確定死刑判決執行前の再審請求と死刑執行再審請求の相違

死刑執行再審の場合、再審開始は国家による無辜の市民の殺害を意味することになる。死刑制度の根幹を揺るがすことにつながる。担当裁判官への厚い壁として機能する。裁判官は真実を見るよりも再審開始しない理由を探そうとする傾向がある。

飯塚事件再審開始は、死刑制度廃止に向けての橋頭堡になる。無実の人が死刑で命を奪われていることを終わらせる。ロシア連邦がウクライナで行っていることには人の命を奪うことを正当化する理屈がある。人の命を奪うことを正当化する考えから決別する。


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徳田靖之弁護士活動56周年記念連続講演会第7回「飯塚事件・菊池事件」
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