医療情報の公開・開示を求める市民の会が医療の質の向上と患者安全のための制度の改善を考えるシンポジウム「制度開始から十年「医療事故調査制度」の課題と展望」を2024年10月19日にオンライン(Zoom)開催した。共催は医療過誤原告の会、患者の視点で医療安全を考える連絡協議会、薬害・医療被害をなくすための厚労省交渉実行委員会。
医療情報の公開・開示を求める市民の会は医療界全ての健全化のために、悲惨な薬害・医療被害が繰り返されないために真のインフォームドコンセントがなされるために、医療情報の公開・開示を求めている。医療情報の公開には様々なレベルがある。
自分はどう診断されどんな治療を受けているのか:カルテ開示
この薬は何という名前で単価はいくらなのか:レセプト開示
ここの病院のスタッフ体制は十分なのか:自治体の情報公開
この薬は認可過程で問題はなかったのか:国の情報公開
Citizens for Public Access to and Disclosure of Medical Information is calling for public access to and disclosure of medical information for the health of the entire medical community and for true informed consent to prevent the repetition of tragic drug and medical injuries. There are various levels of disclosure of medical information.
How you are diagnosed and what kind of treatment you are receiving: medical record disclosure
What is the name of this drug and what is the unit price: receipt disclosure
Is the staffing of this hospital adequate: disclosure of information by the local government
Were there any problems in the approval process of this drug: Disclosure of information by the government
シンポジウムは二部構成である。第一部は講演である。5名が登壇した。
最初に勝村久司(産科医療補償制度再発防止委員)『患者の信頼を得る制度への論点』である。ここでは医療事故裁判・薬害訴訟の本質を「カルテ改ざん、偽証、かばいあい鑑定等との闘い(医学論争ではなく事実経過を争っているだけ)」と指摘する。
これは林田医療裁判(平成26年(ワ)第25447号損害賠償請求事件、平成28年(ネ)第5668号損害賠償請求控訴事件)からも納得できる。林田医療裁判ではカルテに死因は誤嚥性肺炎と記載された。ところが医師は裁判の終盤の証人尋問で誤嚥性肺炎は誤診で、多剤耐性緑膿菌(multidrug resistance Pseudomonas aeruginosa; MDRP)の院内感染が死因と証言した(東京地方裁判所610号法廷、2016年6月1日)。
第二に長尾能雅(名古屋大学病院患者安全推進部)『医療事故調査制度の課題と展望』である。ここでは医療事故調査制度の対象のわかりにくさが指摘された。医療安全のミッションは医療過誤死の撲滅であり、その為の再発防止であり、その為の制度運用でありたいと主張した。この問題は第二部のパネルディスカッションでも議論された。
第三は松村由美(京都大学病院医療安全管理部)『医療事故調査制度の実践と評価』である。ここでは京大病院の運用を説明した。京大病院の院内調査では診療録の記載を「事実」とし、インタビュー結果を「事後に当時のことを伺ったこと」として区別して記載する。林田医療裁判では医師が証人尋問でカルテ記載の死因を覆したが、京大病院に比べて立正佼成会附属佼成病院(当時)はカルテの重みが弱いと感じた。
第四は加藤高志(日弁連人権擁護委員会医療部会)『制度改善を求める日弁連意見書』である。日本弁護士連合会「医療事故調査制度の改善を求める意見書」(2022年)を報告した。
日弁連意見書では以下のような提言をしている。「医療機関あるいは遺族から相談を受けた医療事故調査・支援センターが,調査が必要であると判断した場合には,当該医療機関に調査の実施を促すことができ,当該医療機関が一定期間内になお調査を開始しないときは,同センターが調査を実施できる制度を創設すること」
第五は宮脇正和(医療過誤原告の会会長)『制度を利用した遺族の声と評価』である。医療過誤原告の会の活動を紹介した。厚生労働省研究班「医療事故の全国的発生頻度に関する研究」(2006年3月)では年間医療事故死を24000人から48000人と見ている。本人・家族が医療事故に遭う危険は高く、医療事故被害から自分だけ逃れるすべはないと警鐘を鳴らした。
第二部はパネルディスカッションである。医療事故調査制度に対する病院の格差が大きい。患者安全に熱心な病院がある一方で、医療事故調査制度を避けようとする病院がある。
医療事故調査制度は「管理者が予期しなかったもの」を対象とする。しかし、管理者(病院長)の中には医療事故調査制度の対象になることを避けるために「予期しなかった」を狭くしようとする傾向があると指摘された。高度な手術の場合は、死亡の可能性があったから予期したとされてしまう危険がある。
これに対して、死亡の可能性がある場合でも、予想外のプロセスが発生すれば「予期しなかった」と判断するとの意見が出された。この視点は、医療事故調査の対象範囲を広げ、より多くのケースで原因究明や改善策を見つけることに繋がる。
医療現場では予期しないプロセスが発生し、その結果として患者の生命が失われることがある。このような場合、管理者が事前に「死亡の可能性があった」としても、その背後にあるプロセスが予期しなかったものであれば、事故として調査されるべきという意見は、医療現場における安全性向上のために極めて重要である。
これは林田医療裁判(平成26年(ワ)第25447号損害賠償請求事件、平成28年(ネ)第5668号損害賠償請求控訴事件)も参考になる。林田医療裁判の入院患者はリハビリを行い、退院を示唆されるまで回復した。ところが、患者の長男が経管栄養の流入速度を速めた後に嘔吐し、体調が急変し、亡くなった。この出来事は、まさに「予期せぬプロセス」と言える。
林田医療裁判の公開質問状では、経管栄養の操作をどのように監視・防止されているのかについて問いかけている。「患者の家族の中の悪意ある人物により、経管栄養が操作されるリスクに対して、その予防や検知の対策を採っていますか。採っている場合、その具体的内容を教えてください」。経管栄養は医療行為であり、それを誰がどのように操作するかは極めて慎重に管理されるべきである。
医療事故調査制度の対象を狭めず、しっかりと目を向けることは、今後の医療の質向上に直結する。病院がどのように透明性のある対応を行うかは、医療消費者が関心を持つべき課題である。医療消費者は病院側の対応を注視し、患者の安全が最優先される体制を求める声を上げ続ける必要がある。
制度開始から十年「医療事故調査制度」の課題と展望
林田医療裁判の公開質問状60医療事故調査・支援事業運営委員会
医療事故調査制度と医療基本法
医療事故情報センター設立30周年記念企画
医療事故・薬害の被害の救済と医療の安全
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