公立福生病院事件を考える連絡会「シンポジウム 公立福生病院事件はなぜ起きたのか!?」シンポジウムは林田医療裁判(平成26年(ワ)第25447号損害賠償請求事件、平成28年(ネ)第5668号損害賠償請求控訴事件)とも重なる問題が指摘された。
堀江宗正(東京大学大学院教授/生命倫理・死生学)「反延命主義とは何か」は「「高齢者はもういいでしょ」「これ以上、生きていても仕方がない」という風潮が出ている。医師が治癒後も障害が残ると示唆して患者に延命拒否を答えるように誘導している」と指摘した。
これは林田医療裁判の状況と重なる。林田医療裁判では患者の長男が延命につながる治療を全て拒否した。これについて主治医である立正佼成会附属佼成病院の岩崎医師は「カルテ記載内容の補足として、私は、大事を取りすぎて、意思疎通ができないまま寝たきり状態になるのが最善とは言えない、という主治医の理念をわきまえた上での延命治療拒否だと思いました」と陳述した(乙A第3号証「岩﨑正知医師陳述書」8頁)。医師の誘導の例になる。
患者の権利を守る会は佼成病院に公開質問を出している。そこでは以下の質問をしている。
「複数人の家族の意見から本人の意思を推定する取り組み内容を教えてください」
「「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の強調する繰り返しの意思確認を実現するために取り組みをしていますか。している場合、その具体的内容を教えてください」
これらは堀江教授の批判への対策になる。
高草木光一(慶應義塾大学経済学部教授/社会思想史)「公立福生病院事件を通して」は「重要なことは患者の立場からどのように医師を教育していくかである。患者の側から声をあげていく」と指摘する。佼成病院への公開質問状も患者の側からより良い医療に変えていくアプローチになる。佼成病院の建設的な対応を期待する。
市野川容孝(東京大学大学院教授/医療社会学)「ヨーロッパの状況と回帰するナチズム」はナチスのプロパガンダ映画『私は告発する』を引き合いに、個人の自己決定権による治療中止もナチスの優性思想になると指摘する。岩崎医師の陳述する「意思疎通ができないまま寝たきり状態になるのが最善とは言えない、という主治医の理念」もチーム医療や倫理委員会で検証される問題である。
小松美彦(東京大学大学院客員教授/科学史・生命倫理学)「反延命主義の根源―二つの生命概念」は「命よりも生き方を重視する思想が反延命主義や優生思想に傾く」と指摘する。この点でも岩崎医師の陳述する「意思疎通ができないまま寝たきり状態になるのが最善とは言えない、という主治医の理念」は吟味されるべきものになる。
シンポジウムの内容は以下の記事にまとめている。
このシンポジウムのサブタイトルは「『<反延命>主義の時代 透析中止・人生会議・パンデミック』の出版にあわせて」であった。命が軽視される風潮を批判する生命倫理・死生学・社会思想史などの研究者らの書籍出版に合わせたものである。シンポジウム企画時点の書名は『〈反延命〉主義の時代 透析中止・人生会議・パンデミック』であった。最終的な書名は『〈反延命〉主義の時代 安楽死・透析中止・トリアージ』となった。
人生会議の代わりに安楽死になっている。問題がより直接的になっている。人生会議について安楽死の方向に誘導されてしまうものという懸念がある。しかし、現実はもっと深刻である。林田医療裁判では人生会議が想定する意思決定プロセスを行わず、患者の長男が延命につながる治療を全て拒否した。人生会議を警戒する前に、医療の現実は人生会議のプロセスも経ないで死なせてしまう実態がある。
パンデミックの代わりにトリアージになっている。ここには東京都杉並区の田中良区長のトリアージ発言も影響しているだろう。杉並区は2020年4月に新型コロナウイルス対策補正予算を出して注目された。しかし、その内実は佼成病院など既存病院の損失補填の意味合いがあった(林田力「杉並区が新型コロナウイルス対策で補正予算案」ALIS 2020年4月19日)。税金が投入されたことで佼成病院は公的性格を有し、これまで以上に公正なプロセスや説明責任、情報公開が求められる立場になったことを自覚する必要がある。
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