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執筆者の写真林田医療裁判

公開質問状26群馬大学病院医療事故

患者の権利を守る会は立正佼成会附属佼成病院に公開質問状(26)を送付しました。今回は群馬大学医療事故をテーマとしました。群馬大学医学部附属病院医療事故調査委員会報告書を基にシンポジウム「患者安全への提言は生かされるか」が2021年3月13日に開催されました。


4時間という長丁場でしたが、「群大に学べば日本の医療は変わる」との前向きな発信がありました。過去に起きた問題を調査し、改善に活かす群馬大学の前向きな姿勢は評価できます。群大の問題を群大だけで終わらせない、日本の医療の問題として考えるなど開かれた医療のための議論は、公開質問状と重なります。このような問題は、医療機関、患者・家族、市民と共に議論を深めることが開かれた医療を進める上で不可欠だと確信致しました。


公開質問状では佼成病院の岩﨑医師が裁判の終盤にきて突然「誤嚥性肺炎は誤診で緑膿菌感染症だった」と病名を変更したこと、医師が「肺炎を誤診」した問題にも言及しました。「あるいは、医療裁判で使い古された戦略だったのでしょうか?」ともお尋ねしました。


今まで日本の医療問題は閉鎖された中で起こっていました。そしてうやむやのまま去られていました。医療は、人の生命に関わるものだけに高い説明責任が求められます。公開質問状が佼成病院のクリーンな姿勢を打ち出す好機となることを期待しています。


立正佼成会附属佼成病院 

病院長 甲能直幸 様


公 開 質 問 状(26)

2021年3月29日

前略

公益財団法人生存科学研究所令和2年度助成研究事業シンポジウム「患者安全への提言は生かされるか」が2021年3月13日に開催されました。群馬大学医学部附属病院医療事故調査委員会報告書の「再発防止への提言」をテーマにします。New Normal時代を反映してZoomでも配信しました。林田医療裁判を考える会からも参加しました。


群馬大学医学部附属病院では外科手術で死亡事故が相次いで起こりました。群馬大学医学部附属病院医療事故調査委員会報告書では「再発防止への提言」を盛り込んでいます。そこでは群大病院のみならず、全国の大学病院そして医療界全体に対して、一連の事故の教訓を生かしてほしいという思いを込めて書かれています(上田裕一、神谷惠子編著『患者安全への提言 群大病院医療事故調査から学ぶ』日本評論社、2019年)。


群大病院の医療事故は「群大のみならず日本の医療現場が長年抱えてきた課題を浮き彫りにした出来事」と位置付けられています(長尾能雅「群大事故が遺した課題とその後の日本の医療」)。報告書の提言内容は、全ての病院に向けたものです(上田裕一「『患者安全への提言』 外科診療の課題」)。


これは多くの医療問題に該当いたします。林田医療裁判では患者の長男が経管栄養の流入速度を速め、「延命につながる治療を全て拒否」しました。その後の大口病院事件では点滴の管理が問題になりました。公立福生病院透析中止事件では死の誘導が問題になりました。林田医療裁判で問われた争点は現代日本の医療の問題として問われ続けています。医療問題は単なる一つの事件として終わらせるものではないことを意味していると考えます。


シンポジウムは二部構成でした。第1部は群馬大学病院医療事故調査委員会のメンバー6人が報告書にどのような思いを込めたのかを説明しました。第2部は、それを患者安全の現場の医師達はどう受け止めたかを語りました。


長尾能雅「群大事故が遺した課題とその後の日本の医療」は「真に求められるインフォームド・コンセントの実践」として「患者の熟慮期間の確保が求められる」と指摘しました。Informed Consentは患者への説明に1時間かけた、2時間かけたから十分というものではなく、熟慮して考え直すことができる期間を保障することがInformed Consentになる、と語りました。


患者の権利には「撤回権、診療拒否権」が含まれると指摘します(甲斐由紀子「患者安全への提言は生かされるか 群馬大学医学部附属病院の腹腔鏡手術事故の外部委員を経験して」)。群大病院では、説明が、手術の前日や前々日に行われるなど、患者が熟慮するための時間が確保されていなかった(神谷惠子「法的観点からの報告書の分析とそこに込められたメッセージ 患者安全に向けた医療の在り方」)。


これは「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に書かれている以下の繰り返しの意思確認に通じます。

「時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて本人の意思が変化しうるものであることから、医療・ケアチームにより、適切な情報の提供と説明がなされ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えることができるような支援が行われることが必要である。この際、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等も含めて話し合いが繰り返し行われることも必要である」


今までご回答がないままになっていますが、公開質問状(第1回)質問事項3.では、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の強調する繰り返しの意思確認を実現するために取り組みをしていますか。している場合、その具体的内容を教えてください」と質問しています。これは患者安全の観点で意味があることを再確認しました。


甲斐由紀子「患者安全への提言は生かされるか 群馬大学医学部附属病院の腹腔鏡手術事故の外部委員を経験して」でも「患者・家族は、自己決定のための情報や熟慮期間が確保されず、不十分と認識していた」と指摘しました。患者に共通する思いは「事前に合併症の発生を聞いていれば、治療を受けなかった」になります。患者と医療従事者には「診療情報の非対称性(情報量と質の違い)」があり、患者にとって適切な説明をする必要があります。

Informed Consentで不利益事実(リスク)を伝えることは、患者の自己決定権の保障のために当然求められることです。紛争防止のためにも重要です。それだけではなく、リスクを伝えることはリスクを明確に認識することで医療者自身がリスクに備えられるようになり、患者安全になります(隈本邦彦「患者安全と患者の権利」)。アリバイ作りのための説明とは根本的に異なります。


患者の安全のためにはチーム医療が求められます。マイケル・E. ポーター著、エリザベス・オルムステッドテイスバーグ著、山本雄士訳『医療戦略の本質価値を向上させる競争』(日経BP社、2009年)は「医師の価値を最大化できるのは、フリーエージェントとして行動する個人ではなく、統合型のチームである」と指摘しています。


一般のシンポジウムでは、会場からの質問や意見は限られた数しか受け付けられないのですが、ZoomのWebinarはコメントを共有できます。以下のコメントが寄せられました。

「日本の医学界、学会、病院に自浄作用があるのでしょうか。隠蔽体質がある限り、自浄作用は働かないのではないでしょうか?事故調査制度は事故としてというよりも合併症として隠してしまう内輪での事故報告制度システムですね」


これは、林田医療裁判でも経験しています。当時、佼成病院の岩﨑正知部長医師は、林田医療裁判の終盤に来て突然、カルテに書かれている「誤嚥性肺炎は誤診で実は緑膿菌の院内感染」と病名を変更しました。しかし、この肺炎を誤診した問題についてその後、説明や報告はなく謝罪すらありませんでした。林田医療裁判中に勃発した岩﨑部長医師の発言である「肺炎を誤診した問題」は、現代日本の医療問題とも重なります。

あるいは、医療裁判で使い古されている戦略だったのでしょうか?真実はどこにあるのか。疑問でなりません。

群大事故から5年経っていましたが、読売新聞に「群大の改革」が連載されました。医師たちの一連の医療事故を教訓に改革に挑んでいる姿に好感を持ちました(2019年12月6日 公開質問状(12)。

今回のシンポジウムでは、「群大に学べば日本の医療は変わる」という前向きな発信、患者に向かい合った姿勢に感銘を受けました。やはりこのような問題は、医療機関、患者・家族、市民と共に議論を深めることが開かれた医療を進める上で不可欠だと確信いたしました。


いつものように、未回答のままになっている第1回公開質問状を一緒に掲載致します。また前回の公開質問状(25)では反延命主義について医療機関としての見解をお尋ねしましたが、ご回答がないままになっています。合わせてご回答をお願い致します。ご回答は、有無に関わらずネット上に掲載し、皆様と共に学習することで相互の認識と理解を深め適切な医療を進めるための一助にしたいと考えます。

                               草々

 *****

 公 開 質 問 状(2019年6月30日 第1回)

第1 質問事項

1.患者の家族の中の悪意ある人物により、経管栄養が操作されるリスクに対して、その予防や検知の対策を採っていますか。採っている場合、その具体的内容を教えてください。

2.複数人の家族の意見から本人の意思を推定する取り組み内容を教えてください。

3.「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の強調する繰り返しの意思確認を実現するために取り組みをしていますか。している場合、その具体的内容を教えてください。


第2 質問の趣旨

 1  林田医療裁判では、経管栄養の管理や治療中止の意思決定のあり方が問われました。林田医療裁判の提起後には、点滴の管理が問題になった大口病院の連続点滴中毒死事件や自己決定権が問題になった公立福生病院の人工透析治療中止問題が起きました。また、「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」は2018年3月に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に改定され、意思確認を繰り返し確認することが求められました。林田医療裁判において問われた争点は「終了」しているのではなく、現代日本の医療の問題と重なり問われ続けています。


 2  そこで、私達は林田医療裁判を経験し又その経緯を知った者として、広く医療の現状と課題について考察し、患者の安全と幸せは何かを探求しています。そして、このような問題は広く社会に公開して議論を深めていくことが、適切な医療を進める上で不可欠であると考えています。とりわけ貴病院は、経管栄養の管理や治療中止の意思決定の問題について直面された医療機関として、適切な医療を進めるためのご意見をお寄せになることが道義的にも期待されるところであると思われます。


3  従いまして、上記の質問事項に回答をお寄せ頂けますよう要請いたします。この質問と貴病院の回答はネット上に公開することを予定しています。このような公開の議論の場により、医療機関と患者ないし多くの市民の方が意見を交わし、相互の認識と理解を深め、適切な医療を進める一助にしたいと考えています。この公開質問状の趣旨をご理解いただき、上記の質問事項に回答を寄せていただきたい、と切に要望します。ご回答を連絡先まで郵送してください。回答締切日を二週間以内にお願い致します。   


以上




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