反延命主義をテーマとした鼎談が週刊読書人に掲載された(「鼎談・小松美彦・市野川容孝・堀江宗正・反延命主義に対抗する思想と実践のために」週刊読書人2021年8月27日)。小松美彦、市野川容孝、堀江宗正編著『〈反延命〉主義の時代 安楽死・透析中止・トリアージ』編者の鼎談である。
鼎談では「医療右翼」問題が取り上げられた。堀江さんが以下のように指摘する。「Twitterでは匿名の自称「医療者」アカウントが多く存在し、「医クラ」(医療クラスター)と呼ばれています。反「反ワクチン」、PCR検査抑制(擬陽性患者で医療崩壊が起こるという言説)、延命拒否の容認などを特徴とし、厚労省の政策を推進する傾向があります。私がこれを「医療右翼」と呼んだらどうかとツイートしたところ、短時間で一〇〇件以上の批判が寄せられました。宗教学者は非科学的、なんでも右翼と結びつける、などですが、この集中攻撃からかえって世論を誘導している勢力の存在が明らかになりました」
これに対して市野川さんはヨーロッパでは左翼が反延命主義を推進し、右翼が反延命主義に抵抗する傾向があると指摘する。左翼が反延命主義を推進する傾向にある問題は、公立福生病院事件を考える連絡会が主催し、林田医療裁判を考える会らが協賛した「シンポジウム 公立福生病院事件はなぜ起きたのか!?『反延命主義の時代 透析中止・人生会議・パンデミック』の出版にあわせて」(2021年7月17日)でも議論された。林田医療裁判を考える会も意見を出した。
シンポジウムでは左翼が論じられたが、鼎談では医療右翼が本来的な右翼か右翼の変質かが議論された。日本の右翼は利便性や快楽の追求を拒否し、精神論根性論で頑張ることを美徳とする体質がある。この点で日本の右翼思想は延命を拒否する反延命主義と親和性がある。とは言え、左翼にも精神論根性論はある。右翼か左翼かではなく、昭和の精神論根性論が問題だろう。
それとは別に医療クラスターを医療右翼と名付けることの適否は、そもそも右翼をどう見るかによる。右翼を「雇われ右翼」と認識する場合、医療右翼の命名はしっくりくる。この場合の右翼は思想的なものではなく、既得権擁護の集団となる。これは小松さんの見解「義侠と反体制を本分とするはずの真正右翼に対しては、失礼」とも両立する。
反延命主義の病院では延命拒否の意思がアリバイ作りのために使われる。以下は堀江さんの指摘である。「いったん「延命しない」という言質がとれたらスムーズに「看取り」とされ、鎮静の処置で速やかに死に至らしめられる」。本人の真意を確認したり、本人の利益を追求したりするためではなく、「余計な仕事をしたくない」という公務員的怠惰を正当化するために延命拒否の意思に飛びつく。
これは #林田医療裁判 (平成26年(ワ)第25447号損害賠償請求事件、平成28年(ネ)第5668号損害賠償請求控訴事件)に重なる。林田医療裁判では患者の長男が患者の延命につながる治療を全て拒否した。ここでは本人の意思すら問題にされない。
鼎談では小松さんがSpO2に言及している。「健康な者のspO2は90%台後半で、90%ぐらいになると酸素マスクが必要です。しかし、当該の患者(公立福生病院透析中止死亡事件の患者)はなんと65%にまで下がっているんです」
林田医療裁判の患者が亡くなった日のカルテには「SpO2 80台でありながら本日をむかえた!ご永眠」と記載されている。酸素マスクが必要な状態であるが、患者は日中の酸素マスクもしなかった。SpO2 80台は、酸素吸入をすればこの時点で死ぬことはなくより長く生きられたことを示すものである。
SpO2はパルスオキシメータで測定した経皮的動脈血酸素飽和度である。SpO2が75%になると心虚血性変化をもたらす危険がある。SpO2が50%となると組織障害をきたし、意識障害や昏睡状態に至る危険がある(江口正信『新訂版 根拠から学ぶ基礎看護技術』サイオ出版、2015年)。
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