杏林大学医学部付属杉並病院(旧立正佼成会附属佼成病院)へ73回目の公開質問状を送付しました。
2月8日亀戸文化センターで臓器移植法を問い直す市民ネットワーク主催の講演会にZOOMで参加しました。
「京都ALS嘱託殺人事件と、自己決定による死の後にくるもの」講師は渡邉琢さんです。
尊厳死は「個人の自由」ではなく「社会の圧力」として機能してしまう可能性があり、死の自己決定には危険が多く慎重に検討しなければならない問題、ということでした。
ご覧いただければ幸いです。
ちょうど一年前の2024年2月13日も公開質問状61「わたしはここにいます」を送付しました。映画「帆花」をテーマとしました。
杏林大学医学部付属杉並病院 病院長 市村正一 様
公 開 質 問 状(73) 2025年2月13日
拝啓
少しずつ陽が長くなっています。春はそこまで来ている気配がします。病院長先生にはお変わりなくお過ごしのこととお喜び申し上げます。第73回目の公開質問状をご送付致します。
2025年2月8日(土)臓器移植法を問い直す市民ネットワーク主催による第21回市民講座「京都ALS嘱託殺人事件と、自己決定による死の後にくるもの」が東京都江東区の亀戸文化センター(カメリアプラザ)とオンライン(Zoom)で開催されました。林田医療裁判を考える会はオンラインで参加しました。
講師は渡邉琢さん(わたなべ たく、日本自立生活センター事務局員、介助者、
介助コーディネーター)。琢の字は正式には「つくり」に点の入る12画のJIS第
3水準の漢字です。
殺人罪を問われた大久保愉一医師と山本直樹医師は筋萎縮性側索硬化症ALS; amyotrophic lateral sclerosis患者に対して睡眠薬などに使うバルビツール酸系の薬物を投与して殺害しました。この事件は、医者が患者を殺したとして大きな衝撃を与えました。
大久保医師が関与したとして以下の事件も問われました。
・精神障がいの高齢者を2011年3月5日に医師の立場や知識を悪用しつつ殺害した殺人罪
「老人はさっさと死ねとマジで感じる」と語っていた大久保医師が殺害に関与した事件でした。
また市民講座では、大久保医師が「医療の世界で活躍できないため、死にたい人を死なせることにやりがいを感じた」との評価が紹介されました。
刑事裁判で被告人は憲法13条に基づく死の自己決定権を主張しましたが、京都地裁判決は「自己決定権・幸福追求権・個人の尊厳いずれも個人が生存していることが前提」と退けました。死は自己決定の主体を否定することになるのです。
京都地裁判決は、患者からの嘱託を受けて殺害に及んだ場合に、社会的相当性が認められて可罰的違法性がないとして嘱託殺人罪に問うことが相当ではないと評価するために最低限必要な要件を提示しました。
その要件の一つは患者自身の依頼を受けることです。患者以外の人物が決めていい問題ではない点は林田医療裁判の参考になります。
林田医療裁判で貴院の担当医師は、治療について患者本人に意思確認をしませんでした。そして患者の長男が要望した「延命につながる治療を全て拒否。酸素吸入を拒否」に従いました。患者は、誤嚥性肺炎の治療が中止され、容体が悪化して呼吸困難になるも長男の酸素吸入拒否によって酸素マスクを外されました。担当医師と長男によって死が決められた患者は自力呼吸で数日間喘いでいました(医師記録には自然死の方針と記載)が、最期は喉に痰が詰まって死亡しました。
川口有美子さんは、以下のコメントをし、家族や医者が勝手に決定して死なせてしまう危険を指摘しました。
「直面している問題として、意思の確認ができない人のいのちを守ることが極めて難しくなってきています。すなわち「従前の意思」「最善の利益」「推定意思」と私たちは格闘しなければならなくなるでしょう」
家族や医師が勝手に判断を下すことは、倫理的にも法的にも大きな問題があります。
渡邉さんは、「死の自己決定は周囲に都合がいい。本人の責任で死んでもらえれば周りの負担にならない。個人モデル過ぎる。社会モデルで考えたい」などを指摘しました。
市民講座では臓器移植法を問い直す市民ネットワークらの団体が国民民主党宛に出した「「尊厳死」の法制度化を進めようとする貴党の方針についての公開質問状」の取り組みの説明もありました。国民民主党は2025年1月25日付で回答を出し、その内容が紹介されました。
自己主張できない高齢者が、何も知らされずにひっそりと死んで行くことがないように、また病院が家族の都合に従い姥捨ての片棒を担ぐことのないように社会で真剣に考える問題です。
自己決定は「社会の負担を減らすための選択」にすり替えられる危険を孕んでいます。経済的・社会的な要因が死の選択を後押しする状況が生まれれば、尊厳死は「個人の自由」ではなく「社会の圧力」として機能してしまう可能性があります。その意思が本当に自由な選択であるのか、周囲の環境や圧力が関与していないかを慎重に検討する制度設計が求められています。
いつものように2019年6月30日付の第1回公開質問状を以下に記載いたします。ご回答は郵送にてお願いします。
この質問状は、ご回答の有無にかかわらずネット上に公開させて頂きます。医療者の方々は、林田医療裁判ブログの公開質問状(1)~(73)などをご覧ください。とりわけ貴院は、患者の自己決定の問題に直面した医療機関としてご意見をお寄せ下さることが期待されます。世界の先進諸国に遅れないように、日本の医療認識を高めるためには、医療従事者・病院経営者及び市民の方々が広く意見を交わし議論を深めることが不可欠です。国民の努力によって日本の医療は素晴らしい、と安心できる未来が来ることを願っています。
敬具
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公 開 質 問 状(2019年6月30日 第1回)
第1 質問事項
1.患者の家族の中の悪意ある人物により、経管栄養が操作されるリスクに対して、その予防や検知の対策を採っていますか。採っている場合、その具体的内容を教えてください。
2.複数人の家族の意見から本人の意思を推定する取り組み内容を教えてください。
3.「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の強調する繰り返しの意思確認を実現するために取り組みをしていますか。している場合、その具体的内容を教えてください。
第2 質問の趣旨
1 林田医療裁判では、経管栄養の管理や治療中止の意思決定のあり方が問われました。林田医療裁判の提起後には、点滴の管理が問題になった大口病院の連続点滴中毒死事件や自己決定権が問題になった公立福生病院の人工透析治療中止問題が起きました。また、「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」は2018年3月に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に改定され、意思確認を繰り返し確認することが求められました。林田医療裁判において問われた争点は「終了」しているのではなく、現代日本の医療の問題と重なり問われ続けています。
2 そこで、私達は林田医療裁判を経験し又その経緯を知った者として、広く医療の現状と課題について考察し、患者の安全と幸せは何かを探求しています。そして、このような問題は広く社会に公開して議論を深めていくことが、適切な医療を進める上で不可欠であると考えています。とりわけ貴病院は、経管栄養の管理や治療中止の意思決定の問題について直面された医療機関として、適切な医療を進めるためのご意見をお寄せになることが道義的にも期待されるところであると思われます。
3 従いまして、上記の質問事項に回答をお寄せ頂けますよう要請いたします。この質問と貴病院の回答はネット上に公開することを予定しています。このような公開の議論の場により、医療機関と患者ないし多くの市民の方が意見を交わし、相互の認識と理解を深め、適切な医療を進める一助にしたいと考えています。この公開質問状の趣旨をご理解いただき、上記の質問事項に回答を寄せていただきたい、と切に要望します。ご回答を連絡先まで郵送してください。回答締切日を二週間以内にお願い致します。
以上

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