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誰のための医療か

  • 執筆者の写真: 林田医療裁判
    林田医療裁判
  • 2 時間前
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林田医療裁判(東京高等裁判所平成29年7月31日判決、平成28年(ネ)第5668号損害賠償請求控訴事件)は、入院中に亡くなった患者の長女が、病院と長男夫婦を訴えた訴訟である。この裁判は、高齢者医療における自己決定権、尊厳、そして看取りのあり方について問題を提起している。


●患者の状況

患者は脳梗塞で立正佼成会附属佼成病院に入院し、リハビリを開始して退院の指示が出ていた。ところが、長男は医師の許可なく経鼻経管栄養の流入速度を速め、その後、患者は嘔吐して誤嚥性肺炎になった。

長男は延命につながる治療を全て拒否した。病院は点滴を中止し、日中の酸素マスクもしなかった。長女にはこのことが相談も説明もなく行われ、死後にカルテを見て初めて治療中止を知った。


●林田医療裁判が問いかけること

林田医療裁判は、以下の点を問いかけている。

・長男の意向のみを優先した点

・経鼻経管栄養の速度管理が杜撰だった点

・治療を中止する手続きが簡略な点


林田医療裁判は「誰のための医療か」という問いを投げかける。医師が自己の理念で治療方針を決めたとしても、それが患者自身の価値観や生活の質(QOL)に合致していなければ、それは「押し付け」である。


最大の問題点は、患者本人の意思が不明な状況下での「代理判断」のあり方にある。

特定の家族への依存:判決はキーパーソンとされた長男の治療拒否を認めたが、これは家族を患者本人の意思の推定者ではなく、単なる代替的な同意権者として捉える危うさを孕んでいる。

利益相反の懸念:家族の判断が「患者本人の意思」を反映しているのか、それとも「家族自身の都合」ではないのかという倫理的な検証が欠如していた。

情報の遮断:長女への相談や説明がないまま治療方針が決定されており、親族間での意見の相違や情報の不透明さが、結果として患者の生存権を損なう要因となった。


判決は特定の家族を「キーパーソン」とし、キーパーソンによる治療拒否を認めた。

「「Y2は…延命につながる全ての治療を拒否した」「Y2……は高度医療を拒否した」ことを事実として認定していることからは、裁判所はY2(すなわち「キーパーソン」を、患者本人の意思を推定するものではなく、家族を代表してA(注:患者)に代わって治療に同意(あるいは治療を拒否)する者として捉えているとも考えられる」(小林真紀「家族間における延命措置の葛藤」甲斐克則、手嶋豊編『医事法判例百選 第3版』有斐閣、2022年、201頁)


これは本当に本人の意思や利益に基づいたものだろうか。日本臨床倫理学会「日本版POLST(DNAR指示を含む)作成指針」が定める代理判断者の基準に照らし、法的な判断が医学的・倫理的なガイドラインから逸脱していないか問い直したい。

「代理判断者の意思表示は,患者の立場に立ったうえで,真摯な考慮に基づいたものですか?」

「特に、家族等の判断や決定は、本当に『患者本人の意思を推定あるいは反映しているのか?』、もしかしたら『家族自身の願望とか都合ではないのか?』という倫理的に微妙な違いに敏感になる必要があります」

「家族等(代理判断者)は、患者と利益相反はありませんか?」

「家族等(関係者)内で、意見の相違はありませんか?」


林田医療裁判は、医療を受ける側(医療消費者)が、ただ治療を受けるだけの存在ではなく、「納得のいく説明と公正なプロセス」を求める権利があることを再認識させた。キーパーソンが下す判断が、時に患者本人の生存権や利益と対立する可能性があることを示唆した。現在進められている医療事故調査制度の運用や、ACP(人生会議:アドバンス・ケア・プランニング)の議論において、林田医療裁判が投げかけた「代理判断の正当性」というテーマは、今なお避けて通れない最重要課題の一つである。


林田医療裁判

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