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執筆者の写真林田医療裁判

さいたま市立病院で入院患者の息子が殺人未遂

更新日:2020年11月21日

さいたま市立病院(埼玉県さいたま市緑区)で入院中の母(76)の首を絞めて殺害しようとしたとして、さいたま市南区の会社員の男(50)が2020年9月5日、殺人未遂容疑で逮捕された。逮捕容疑は同日午前4時25分頃、入院中の母親の首を両手で絞めるなどして殺害しようとしたこと。母親は首を絞められてから約10時間後、死亡が確認された。


母は今年6月頃から入退院を繰り返していたが、9月4日午後に容体が悪化。危篤状態となり、男は看病のために病室を訪れていたが、持っていたボールペンで母を刺そうとした後、両手で首を絞めた。病室にいた医師や看護師が男を止め、「入院患者の息子が首を絞める事案があった」と110番した(「母親死亡、容疑の男逮捕 入退院繰り返す母が危篤、看病に訪れ首絞める…楽にしてあげたかった/浦和東署」埼玉新聞2020年9月6日)。


男は「楽にしてあげたかった」と供述している。しかし、ボールペンで刺されることや首を絞められることは到底、患者が楽になる行為にはならない。患者本人の感覚ではなく、男性自身の思いだけで突っ走った行動である。


これは林田医療裁判でも繰り返し問題提起している。キーパーソンの意見を聞いただけでは患者本人の意見を聞いたことにならない。本人の意見を繰り返し確認すること、家族らの意見も家族ら自身の要望ではなく、本人の意見を推察する判断材料として聞くこと、そのために多数の家族らの意見を聞いて複合的に把握することが求められている。


これは厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の求めることである。「時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて本人の意思が変化しうるものであることから、医療・ケアチームにより、適切な情報の提供と説明がなされ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えることができるような支援が行われることが必要である。この際、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等も含めて話い合いが繰り返し行われることも必要である」


林田医療裁判の舞台となった立正佼成会附属佼成病院では入院患者の長男が経鼻経管栄養の流入速度を医師の許可なく勝手に速めた。患者の権利を守る会は佼成病院に公開質問状を出し、以下の質問をしている。「患者の家族の中の悪意ある人物により、経管栄養が操作されるリスクに対して、その予防や検知の対策を採っていますか。採っている場合、その具体的内容を教えてください」


林田医療裁判を取り上げた第12回「医療界と法曹界の相互理解のためのシンポジウム」では参加医師から以下の指摘がなされた。「10年ほど前に足立区のある地域の高齢者で、肺炎で入院した患者さんのDNARの設定率を調べたのですが、その時点では長男と同居しているとやたらDNARが設定されていました。私はそのとき長男って冷たいのだなと思っていたのです」(判例タイムズ1475号16頁)。さいたま市立病院の事件も息子の冷たさの一例になる。日本は姥捨ての陋習から脱却できていないのだろうか。




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