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執筆者の写真林田医療裁判

医療事故情報センター総会記念シンポジウム2024

医療事故情報センターが総会記念シンポジウム「医療事故・薬害の被害の救済と医療の安全 ~患者側代理人に期待すること」を2024年5月25日(土)に愛知県名古屋市中村区の愛知県産業労働センター(ウインクあいち)とZoomで開催した。


The Medical Malpractice Information Center held the symposium commemorating its annual meeting, "Relief of Damage Caused by Medical Accidents and Drug Injuries and Safety of Medical Care: Expectations of Patients' Representatives," on Saturday, May 25, 2024, at the Aichi Industry and Labor Center in Nakamura-ku, Nagoya, Aichi Prefecture. and Zoom.


シンポジウムは二部構成である。第1部は鈴木利廣弁護士が「医療と人権に関する患者側弁護士の役割」と題して講演した。鈴木弁護士は『損害賠償訴訟と弁護士の使命 医事関係訴訟を素材に』(日本評論社、2023年)を出版した。


第2部は加藤良夫弁護士が「医療事故・薬害の被害の救済と医療の安全―患者側代理人に期待すること」と題して講演した。「実に数多くの理不尽な出来事と格闘した」と語る。


先人の努力があった医療訴訟として東大輸血梅毒事件が紹介された。東京大学医学部付属病院で手術を受けた女性が手術の際の輸血で梅毒に感染した。梅毒感染者の血液を輸血したためである。東大病院の医師は「からだは丈夫か」と質問しただけで検査をせずに採血した。


最高裁昭和36年2月16日判決は医師の過失を認めて損害賠償を命じた。

「いやしくも人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は、その業務の性質に照し、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのは、已むを得ない」

「医師として必要な問診をしたに拘らず、なおかつ結果の発生を予見し得なかつたというのではなく、相当の問診をすれば結果の発生を予見し得たであろうと推測されるのに、敢てそれをなさず、ただ単に「からだは丈夫か」と尋ねただけで直ちに輸血を行ない、以つて本件の如き事態をひき起すに至つたというのであるから、原判決が医師としての業務に照し、注意義務違背による過失の責ありとしたのは相当」


東大輸血梅毒事件の最善の注意義務は21世紀の医療訴訟と比べても先進的である。近時は医師の注意義務を医療水準から判断されたり、因果関係を高度な蓋然性で判断されたりすることがある。最善の注意義務から後退を感じる。


林田医療裁判(平成26年(ワ)第25447号損害賠償請求事件、平成28年(ネ)第5668号損害賠償請求控訴事件)では患者の長男が経管栄養の流入速度を速めることをした。この点は上告理由補充書で以下のように指摘した。最善の注意義務を求めている。

「点滴や経鼻経管栄養に悪意が介在することは現実に起こり得ることであり、想定外との言い訳は成り立たない。それは病院の責任放棄であり、最善の医療を受ける権利の侵害である」(上告理由補充書(一)13頁)


医療従事者は、患者の生命と健康を守るために最善の注意義務を負っている。医療現場においては常に最善の注意を払い、患者とその家族に対する誠実な対応を心がけることが求められる。これにより、患者の権利が尊重され、安全で質の高い医療が提供される社会の実現が期待される。


講演では病理医に圧力がかけられて病理診断書が歪められた例を話した。卵巣血腫を虫垂炎と誤診したケースで解剖時に虫垂炎の所見を認めなかった。しかし、診断書では「虫垂炎であったものか」と書かれた。


説明の変遷は林田医療裁判とも重なる。林田医療裁判ではカルテに死因を誤嚥性肺炎と記載されていた。ところが立正佼成会附属佼成病院の医師は、カルテ記載の死因の誤嚥性肺炎が誤診で、多剤耐性緑膿菌(multidrug resistance Pseudomonas aeruginosa; MDRP)の院内感染が死因と証人尋問で証言した(東京地方裁判所610号法廷、2016年6月1日)。


質疑応答では医療裁判の患者側敗訴の要因について質問された。加藤弁護士は複合的な要因があるとしつつも、立証責任が大きな壁と指摘した。これは林田医療裁判にも当てはまる。


また、病院側が患者・遺族側の説明会開催に応えているかという議論がなされた。病院側の弁護士が説明会に応じないようにしているのではないかとの指摘があった。これに対して病院側からは説明会という形では開催しないが、患者・遺族の意見を聞かないことはないとの指摘が出された。林田医療裁判の公開質問状は一度も回答がなされていないが、それは病院側にとって当然のこととは言えないだろう。


医療事故情報センター設立30周年記念企画

医療事故・薬害の被害の救済と医療の安全




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