真夏並みの暑さが続いたかと思うと今日はいくらか涼しいです。皆様いかがお過ごしでしょうか。今月5月は15日が国際家族デーInternational Day of Familiesです。家族の重要性とその価値を認識し、家族に関する問題を考えるために1993年に国連総会でA/RES/47/237決議で宣言されました。国際家族デーに際し、家族内のコミュニケーションの重要性や高齢者医療における家族の役割について考えることは非常に意義深いです。
国際家族デーに際して、林田医療裁判から学べる教訓は多くあります。林田医療裁判の公開質問状では「患者の家族の中の悪意ある人物により、経管栄養が操作されるリスク」や「複数人の家族の意見から本人の意思を推定する取り組み」を取り上げています。家族全員が安心して生活できる社会の実現に関係する問題です。家族と医療チームが協力して最善の治療方針を見つけることが重要です。
立正佼成会附属佼成病院へ64回目の公開質問状を送付しました。5月25日医療事故情報センターのシンポジウムにZoomで参加しました。「医療事故・薬害の被害の救済と医療の安全~患者側代理人に期待すること」と題してお二人の弁護士の講演を聞きました。医療の正義を考えさせられる内容でした。一部をご紹介いたします。ご覧いただければ幸いです。
立正佼成会附属佼成病院 病院長 市村正一 様
公 開 質 問 状(64) 2024年5月27日
前略
64回目の公開質問状をご送付致します。
2024年5月25日 医療事故情報センターが総会記念シンポジウム「医療事故・薬害の被害の救済と医療の安全~患者側代理人に期待すること」を愛知県名古屋市産業労働センターとZoomで開催されました。お二人の弁護士が講演されました。その一部をご紹介します。
先人の努力があった医療訴訟として東大輸血梅毒事件がありました。東京大学医学部付属病院で手術を受けた女性が手術の際の輸血で梅毒に感染しました。梅毒感染者の血液を輸血したためです。東大病院の医師は「からだは丈夫か」と質問しただけで検査をせずに採血しました。
最高裁昭和36年2月16日判決は医師の過失を認めて損害賠償を命じました。
「いやしくも人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は、その業務の性質に照し、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのは、已むを得ない」
「医師として必要な問診をしたに拘らず、なおかつ結果の発生を予見し得なかつたというのではなく、相当の問診をすれば結果の発生を予見し得たであろうと推測されるのに、敢てそれをなさず、ただ単に「からだは丈夫か」と尋ねただけで直ちに輸血を行ない、以つて本件の如き事態をひき起すに至つたというのであるから、原判決が医師としての業務に照し、注意義務違背による過失の責ありとしたのは相当」
この東大輸血梅毒事件の最善の注意義務は21世紀の医療訴訟と比べても先進的です。
林田医療裁判(平成26年(ワ)第25447号損害賠償請求事件、平成28年(ネ)第5668号損害賠償請求控訴事件)では患者の長男が経管栄養の流入速度を速めることをしました。この点は上告理由補充書で以下のように指摘し最善の注意義務を求めました。
「点滴や経鼻経管栄養に悪意が介在することは現実に起こり得ることであり、想定外との言い訳は成り立たない。それは病院の責任放棄であり、最善の医療を受ける権利の侵害である(上告理由補充書(一)13頁)。」
医療従事者は、患者の生命と健康を守るために最善の注意義務を負っています。医療現場においては常に最善の注意を払い、患者とその家族に対する誠実な対応を心がけることが求められます。これにより、患者の権利が尊重され、安全で質の高い医療が提供される社会の実現が期待されます。
講演で印象に残ったことは、「飯島宗一先生の言葉」です。加藤弁護士は、以前、飯島宗一先生(※)に「協力医を集めたい,“あしながおじさん”のような人を...」と話したところ飯島先生は、「医療過誤の問題は、本来、医師が自分たちの問題としてしっかり取り組まなければならない問題だ」「医師に対して、プロとしての姿勢を示せとなぜ君は言えないのか」と言葉を返されました。(※医学博士、広島大学第4代学長1969年~1977年、名古屋大学第8代総長1981年~1987年)
この「飯島宗一先生の言葉」に感動致しました。
医療の質の向上には、医療者・患者の対立よりも対話、過去の経験から学ぶこと、信頼には透明性が不可欠であることを考えました。
いつものように2019年6月30日付 第1回公開質問状を以下に記載いたします。ご回答は郵送でお願いします。患者主体の開かれた医療にするためには、市民と共に考え、議論を深めることが必要です。この質問状は、ご回答の有無にかかわらずネット上に公開させて頂きます。
草々
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公 開 質 問 状(2019年6月30日 第1回)
第1 質問事項
1.患者の家族の中の悪意ある人物により、経管栄養が操作されるリスクに対して、その予防や検知の対策を採っていますか。採っている場合、その具体的内容を教えてください。
2.複数人の家族の意見から本人の意思を推定する取り組み内容を教えてください。
3.「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の強調する繰り返しの意思確認を実現するために取り組みをしていますか。している場合、その具体的内容を教えてください。
第2 質問の趣旨
1 林田医療裁判では、経管栄養の管理や治療中止の意思決定のあり方が問われました。林田医療裁判の提起後には、点滴の管理が問題になった大口病院の連続点滴中毒死事件や自己決定権が問題になった公立福生病院の人工透析治療中止問題が起きました。また、「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」は2018年3月に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に改定され、意思確認を繰り返し確認することが求められました。林田医療裁判において問われた争点は「終了」しているのではなく、現代日本の医療の問題と重なり問われ続けています。
2 そこで、私達は林田医療裁判を経験し又その経緯を知った者として、広く医療の現状と課題について考察し、患者の安全と幸せは何かを探求しています。そして、このような問題は広く社会に公開して議論を深めていくことが、適切な医療を進める上で不可欠であると考えています。とりわけ貴病院は、経管栄養の管理や治療中止の意思決定の問題について直面された医療機関として、適切な医療を進めるためのご意見をお寄せになることが道義的にも期待されるところであると思われます。
3 従いまして、上記の質問事項に回答をお寄せ頂けますよう要請いたします。この質問と貴病院の回答はネット上に公開することを予定しています。このような公開の議論の場により、医療機関と患者ないし多くの市民の方が意見を交わし、相互の認識と理解を深め、適切な医療を進める一助にしたいと考えています。この公開質問状の趣旨をご理解いただき、上記の質問事項に回答を寄せていただきたい、と切に要望します。ご回答を連絡先まで郵送してください。回答締切日を二週間以内にお願い致します。
以上
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