本田宏『日本の医療はなぜ弱体化したのか 再生は可能なのか いのちを守る医療制度は、なぜここまで弱体化したのか』(合同出版、2021年)は日本の医療の脆弱性を論じた書籍。新型コロナウイルス感染症(COVID-19; coronavirus disease 2019)のパンデミックで日本の医療の脆弱性が明らかになった。Why has Japan's healthcare system been weakened?
コロナに感染しても受け入れ病床がなく、入院できず、自宅療養を余儀なくされる。これは需要に応えられないということで産業として致命的である。医療崩壊防止を名目として自宅療養を正当化する主張があるが、その医療崩壊とは医療機関の崩壊に過ぎない。医療機関の崩壊を防ぐために患者は崩壊している。個人よりも組織の維持を優先するところは日本型組織の駄目な発想である。
日本ではコロナ禍を終わったこととしてコロナ禍以前の対人接触に戻そうとする発想が強い。しかし、南アフリカで新たな新型コロナウイルス変異株が発見された。免疫を回避し、高い感染力の懸念がある。
日本の医療の問題はコロナ禍以前から存在していた。第2章「コロナ以前から、医療崩壊は始まっていた 日本の医者の過酷な労働環境」は医師の過重労働を取り上げる。立正佼成会附属佼成病院の小児科医の夫を過労自殺で亡くした遺族の声もある(中原のり子「過労死医師の家族より」)。
佼成病院過労自殺では遺族が病院に損害賠償を求めて裁判を起こした。最高裁第2小法廷(古田佑紀裁判長)で2020年7月8日に訴訟上の和解が成立し、病院側が遺族に700万円の和解金を支払うことになった(「小児科医の過労自殺、最高裁で和解が成立」日本経済新聞2020年7月8日)。
その前の東京地裁判決や東京高裁判決は問題があった。判決は具体的な予見可能性がないとして病院の責任を否定した。病院が分からなければ責任に問えないとなってしまう。病院が勤務医の労働実態を管理していなければ責任を問われないならば、労働実態を管理しない方が良いという本末転倒に陥る(「過労死・自殺が相次ぐ勤務医、ずさんな労務管理が横行、2割が過労死ライン」東洋経済オンライン2008年11月11日)。
佼成病院は杏林学園教育関連施設である。杏林大学医学部付属病院では約15人の医師が過労死ラインの月80時間超の残業をしていた。しかも残業代を未払いであった(「杏林大、医師に長時間労働 労基署勧告」日本経済新聞2018年1月20日)。佼成病院過労自殺の教訓が活かされているとは言えない。
佼成病院では新型コロナウイルスの院内感染が起きた。新型コロナウイルスに感染した入院患者から他の患者や看護師に感染した。「最初の陽性患者の主訴が発熱でなかったとはいえ、同室の患者や看護師まで感染してしまっているなど、佼成病院の医療機関としての管理体制は杜撰だったと言わざるを得ない」と批判される(「新型コロナ「院内感染」東京・杉並佼成病院の場合」週刊現代2020年3月14日号)。コロナ禍の医療問題で佼成病院を取り上げることには意義がある。
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