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執筆者の写真林田医療裁判

公立福生病院透析中止死亡裁判が説明不十分を認める訴訟上の和解

更新日:2021年10月18日

#林田医療裁判 を考える会は #公立福生病院 #透析中止 死亡裁判を支援します。


公立福生病院透析中止死亡裁判は2021年10月5日、東京地裁(桃崎剛裁判長)で訴訟上の和解が成立した。地裁は、病院が十分な説明をしないまま透析を中止したなどとして和解を勧告した。


和解条項の前文は以下のように記載する。「透析中止の判断が患者の生死にかかわる重大な意思決定であることに鑑みると、一件記録上、本件患者に対する透析中止に係る説明や意思確認に不十分な点があったといえる」


病院側は解決金を支払うとともに、患者に適切な説明をすることを約束する内容になった(「東京・公立福生病院 透析中止、遺族と和解 解決金支払いへ」毎日新聞2021年10月6日)。和解条項には病院側は患者に治療方針を変更できることを十分に伝えたり、病状変化に応じて意思の確認に努めたりすることが盛り込まれた(「公立福生病院で透析患者死亡、損賠訴訟の和解成立…病院側が解決金支払い」読売新聞2021年10月6日)。解決金の金額は明らかにされていない。


以下は和解条項の内容である。「東京都の指導事項を誠実に遵守し、医師、看護師その他の医療従事者が医療を提供するに当たり適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めること、医療ケア・方針決定に当たって患者にセカンドオピニオンを求められること、決定を留保できること、決定を変更できることを十分に伝え、意思決定後も,患者の病状変化等に応じて、適宜その意思に変更がないか家族等とともに確認するよう努める」


和解条項の前文には「一件記録上被告病院の医師が、本件患者に対し、「死の選択肢」である透析中止を積極的に提案することで、本件患者を死に誘導した経緯があったとは認められない」とある。これは一見すると病院の擁護になる説明である。しかし、積極的に提案することで死に誘導した訳ではないということに過ぎない。


公立福生病院事件を考える連絡会・事務局は福生病院が死の選択肢を提示し、選択を迫ったと指摘する。「被告病院が事件当時の病院指標に「腎不全に対する代替療法は、非導入、血液透析、腹膜透析、移植の 4 つの選択肢を提示し、患者と家族に決定して頂く」を掲げ、担当医が「血液透析は治療では無い。腎不全というものによる死期を遠ざけているにすぎない。多くの犠牲もつきものだ」との持論を展開し患者に選択を迫った」(公立福生病院事件を考える連絡会・事務局「和解成立に当たっての声明」2021年10月5日)


より重要な点は病院が誘導しなくても説明不十分であるとしたことである。病院が起点にならなくても死なせる医療は起こる。林田医療裁判(平成26年(ワ)第25447号損害賠償請求事件、平成28年(ネ)第5668号損害賠償請求控訴事件)では患者の長男が「延命につながる治療を全て拒否」したことが起点になっている。このような場合に病院の対応が問われる。


患者遺族は訴訟上の和解に対して以下のメッセージを出した。「これから先同じような事が起きないように、患者への意思確認をこまめにしていって欲しい、命の尊さを今一度よく考えてほしいと思います」。これは林田医療裁判に刺さる。立正佼成会附属佼成病院は本人の意思確認はできないとして、キーパーソンとした患者の長男の意思確認とした。しかし、それは長男個人の意思の確認であって、患者本人の意思を推認しようとしたものではない。


公立福生病院の訴訟上の和解に対するコメントは、説明不十分を記録の不備に矮小化している。「患者に対して『死の選択肢』である透析中止を提案したという一部報道があったが、そのような事実がないことが確認されました。他方で、記録に不十分な面があったことからこの点も踏まえ遺族との円満な解決に至りました」(「公立福生病院 人工透析中止訴訟で和解成立 東京地裁」NHK 2021年10月5日)。


訴訟上の和解について報道では単に和解と記載されるが、不正確である。訴訟上の和解と和解には大きな違いがある。訴訟上の和解は日常用語の和解とは異なる。これは東急不動産消費者契約法違反訴訟(東急不動産だまし売り裁判)で問題になった。訴訟上の和解と和解を混同するから公立福生病院コメントの「円満な解決」のような印象操作がなされやすくなる。


訴訟上の和解では説明不十分がキーワードになった。これは良い表現である。患者遺族側の弁護団は説得義務違反という主張を展開していた。説得義務を日常語からイメージすると「死にたい」と言う人に対して「苦しくても頑張って生きることが素晴らしい」「生きることが闘いだ」と価値観を押し付けるパターナリズムに見えてしまう。実際、これは裁判報告のZoom会議で意見が出た。


弁護団の主張する説得義務は日常語の説得イメージとは異なる。患者が透析離脱を希望しても、医師が患者に対して情報提供をした上で説得すべきだったとの内容である。必死に説得するというものではなく、患者が判断するための正確な情報を与えることである。とはいえ、日常語の説得のイメージが強く、いくら日常語とは違うと言ったところで、そこに引きずられてしまいがちである。その意味で説明不十分という表現は問題の本質を突いている。


説明不十分という言葉は、少しは説明しているような場合にも該当する。正に不十分であることが問題である。アリバイ作り的に形式的に説明したからOKとならない。たとえば林田医療裁判ではキーパーソンに説明したとするが、それで十分かが問われることになる。


安楽死という言葉にミスリーディングされる人々は多いが、公立福生病院中止裁判は死が安楽をもたらすものではないことを明らかにした。「本件事実関係の中で、多くの人の涙をさそった場面は患者が透析離脱証明書にサインしたあと、苦しくなって入院し、尿毒症や肺水腫による耐えがたい苦しさから、身をよじって何度も苦しさを訴え、透析離脱について「撤回」すると訴えたにもかかわらず、被告病院医師は透析を再開せず、死亡への流れをそのまま放置しました」(公立福生病院事件弁護団「弁護団声明」2021年10月5日)


これも林田医療裁判に重なる。林田医療裁判の患者は長男の酸素吸入拒否に従って酸素マスクをつけられなかった。病状は悪化するもでも夜間だけ酸素マスクをして朝になると外して自力呼吸をさせた。夜間だけつけた理由を立正佼成会附属佼成病院の岩﨑医師は「もとより、酸素があるほうが本人は楽であろうが、夜間は手薄などで夜間に呼吸が止まらないようにするものである」と病院の都合であると裁判で述べた。


公立福生病院透析中止死亡裁判は以下の日程で進行した。

2019年10月17日、提訴

2020年7月22日、第1回期日、口頭弁論

2020年9月14日、第2回期日、弁論準備手続

2020年11月13日、第3回期日、弁論準備手続

2020年12月25日、第4回期日、弁論準備手続

2021年3月8日、第5回期日、弁論準備手続

2021年4月27日、第6回期日、弁論準備手続

2021年6月10日、第7回期日、弁論準備手続

2021年7月14日、第8回期日、口頭弁論(証人尋問・原告本人尋問)

2021年8月27日、第9回期日、口頭弁論(結審)

2021年10月5日、訴訟上の和解成立

2021年12月3日、判決言い渡し予定(中止)


「透析中止の説明「不十分」 福生病院、患者遺族と和解」産経新聞2021年10月5日

新屋絵理「透析中止で患者死亡、病院と遺族が和解 裁判長「病院の説明不十分」」朝日新聞2021年10月5日



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