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執筆者の写真林田医療裁判

加藤勝信厚生労働大臣に抗議します

「骨格提言」の完全実現を求める大フォーラム実行委員会は2022年10月3日に岸田文雄内閣総理大臣と加藤勝信厚生労働大臣宛てに抗議文「加藤勝信厚生労働大臣に抗議します」を提出しました。


私たちは、2011 年8月に出された「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」(骨格提言)の完全実現を求めて活動している障害当事者や市民の団体です。障害者権利条約を具現化する重要な一環として、「骨格提言」の完全実現が必要だと考えて活動してきています。

加藤厚生労働大臣は 9 月 16 日の記者会見で障害者権利委員会の対日勧告(総括所見)について尋ねられて下記(本文3ページに詳細)のように答えています。しかし、この答弁はいくつもの間違いをしています。


その1. 「総括所見はご承知のとおり法的拘束力を有するものではありません」について。

この発言は、二通りに解釈することができます。一つはそもそも条約に従う法的義務はないということ、もう一つは条約には従うとしても、その条約体である権利委員会の審議結果である「総括所見」には従う法的義務がないということです。

日本国憲法第九十八条と第九十九条は、国務大臣は締結した条約を遵守しなければならないと定めています。すなわち、「第十章 最高法規〔憲法の最高性と条約及び国際法規の遵守〕第九十八条

2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

〔憲法尊重擁護の義務〕第九十九条 ~国務大臣~は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」

明らかに国務大臣は、締結した条約を遵守しなければならないのです。


総括所見(Concluding Observation)は,国連の人権分野の条約の「条約体」が,締約国報告を審査した後に発行する文書で,内容は締約国に対する評価と勧告です。障害者権利条約には「第三十七条 締約国と委員会との間の協力 1 各締約国は、委員会と協力するものとし、委員の任務の遂行を支援する」と定められています。「条約は守るが条約体には従わない」と言うのであれば、「法律には従うが裁判所の判決には従わない」と駄々をこねているような理屈になります。

加藤大臣の答えは、いずれに解釈しても法理に反していることは明らかです。


その2. 「精神障害者に対する非自発的入院の見直し」という意見について。

これは明らかな誤りです。対日勧告が求めているのは「強制入院のための法規の廃止」であって「見直し」にとどまるものではありません。明らかな虚偽です。


その3. 「本年 6 月には、施設や精神科病院の見直し、障害者の地域生活の推進についても、その課題や見直しの方向性について報告され、具体的には医療保護入院について入院期間を定めること等が含まれているところであります。そうした見直しの方向性も踏まえ」について。

これも虚偽です。

まず第一に、この内容を検討する検討会に、私たち精神障害者は代表を送った覚えはありません。

一部の精神障害者が入っていたかもしれませんが、それをもって「精神障害者の総意を聴取した」とすることできません。精神障害者全体の利害に関することであれば、パブリック・コメントなどで、その多くの意見を聴取する努力をするべきです。

さらにこの検討会では、日本独特の制度で、強制入院の多くを占める「医療保護入院の廃止」の方向に議論が進んでいたものを、日本精神科病院協会の山崎學会長が呼ばれてもいないのに押しかけて「強制入院を廃止して困るのは、警察と保健所だ」と恫喝しひっくり返しました。この一時間以上にわたる恫喝でもって、まったくちがう結論にいたったという経緯があります。

第二に、「具体的には医療保護入院について入院期間を定めること」については、権利委員会対日勧告が求めることとは明らかに違います。まず、「入院期間を定める」ということ自体が嘘です。「入院期間を定め、精神科病院の管理者は、この期間ごとに医療保護入院の要件を満たすか否かの確認を行う」(「障害者総合支援法改正法施行後3年の見直しについて」障害者部会報告書)に過ぎず、何ら入院期間の縛りを設けるものではありません。また、総括所見が「要請」しているのは、「障害者の強制入院を、障害を理由とする差別であり、自由の剝奪に相当するものと認識し、実際の障害または危険であると認識されることに基づく障害者の強制入院による自由の剥奪を認めるすべての法的規制を廃止すること」と明確に強制入院制度の廃止を求めているのです。

そしてそのための具体的な方法として、「・精神科病院に入院している障害者の地域社会で必要な精神保健支援とともに自立した生活をはぐくむこと。・障害者団体と協議のうえ、地域自立生活へ効果的に移行するための、人材、技術、資金を伴う法的枠組み、国家戦略、その実施のための地方自治体の義務付けを開始すること」を「強く要請」しているのです。

この具体的な方法論は、一般的にも存在する《今直ちに精神科病院への強制入院を廃止したら精神障害者が困るのではないか》という疑問にもこたえるものです。

明らかに、加藤大臣の答弁は虚偽に虚偽を重ねる詭弁であると断ずるほかありません。強く抗議するものです。

私たちは日本国政府が日本国憲法に従い、障害者権利委員会の対日勧告を忠実に実現することを求めます。そのために私たちは政府と自治体に協力する用意があります。ともに日本の精神障害者の人権を確立していきましょう。


厚生労働省 HP より、加藤勝信大臣記者会見の障害者権利条約に関する部分 9/16

記者:

先週 9 日、障害者権利条約に基づく審査を踏まえて、国連が日本政府に対して勧告を発表しました。

勧告では、特別支援教育の中止や精神科病院の強制入院を可能とする法的規定の廃止が求められました。

また、入所施設から地域社会での生活に移行できるよう政府の予算配分を変えることや、相模原市で起きた障害者施設殺傷事件の検証をすることも盛り込まれています。

勧告に対する大臣の所感と、厚労省として今後どのように取り組んでいくお考えかお聞かせください。

大臣:

まず、8 月 22 日、23 日に、条約批准後、初めてとなる障害者権利条約の取組状況についての審査を国連の委員会から受け、9 月 9 日に総括所見が出されたところであります。

我が省に関連する事項としては、今の質問の中にもありましたが、精神障害者に対する非自発的入院の見直し、障害者の地域社会での自立した生活の推進など、多岐にわたる事項が含まれていると思います。

この総括所見はご承知のとおり法的拘束力を有するものではありませんが、障害者の希望に応じた地域生活の実現、また一層の権利擁護の確保に向けて、今回の総括所見の趣旨も踏まえながら、関係省庁とも連携して、引き続き取り組んでいきたいと考えております。

障害福祉や精神科医療に関しては、障害当事者も参画する関係審議会や検討会で議論を進めてきました。本年 6 月には、施設や精神科病院の見直し、障害者の地域生活の推進についても、その課題や見直しの方向性について報告され、具体的には医療保護入院について入院期間を定めること等が含まれているところであります。そうした見直しの方向性も踏まえて、具体的な体制をしっかりととっていくよう引き続き努力をしていきたいと思っています


日本国憲法

「第十章 最高法規〔憲法の最高性と条約及び国際法規の遵守〕第九十八条 この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

〔憲法尊重擁護の義務〕第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」


精神障害者に関する国連障害者権利委員会の総括所見の本文

(翻訳は機械翻訳による。また「心理社会的障害者」と訳されているものは精神障害者とした)

強く要請する

p14

・精神科病院に入院している障害者の地域社会で必要な精神保健支援とともに自立した生活をはぐくむこと

・障害者団体と協議のうえ、地域自立生活へ効果的に移行するための、人材、技術、資金を伴う法的枠組み、国家戦略、その実施のための地方自治体の義務付けを開始すること。


要請する

p10

・障害者の強制入院を、障害を理由とする差別であり、自由の剝奪に相当するものと認識し、実際の障害または危険であると認識されることに基づく障害者の強制入院による自由の剥奪を認めるすべての法的規制を廃止すること

・認識されている、あるいは実際に障害があるという理由で、合意のない精神科治療を正当化するすべての法的条項を廃止し、障害者が強制的な治療を受けることなく、他の人と平等に同じ範囲、質、水準の医療を受けられるようにするための監視機構を設置すること

勧告する

P3

・条約と国内法及び政策を調和させること

・欠格条項を廃止すること

p8

・精神科病院での死亡事例の原因や状況について、徹底的かつ独立した調査を実施すること

P11

・精神障害者の強制的な扱いを正当化し、不当な扱いにつながるすべての法規の廃止し、精神障害者に関するあらゆる介入が、条約の下での人権と義務に基づくことを保証すること

・障害者の代表組織と協力して、精神医学的環境における障害者のあらゆる形態の強制的かつ不当な扱いの防止と報告のための効果的な独立した監視機構を確立すること

・精神科病院における虐待を報告するための利用しやすいメカニズムを設置し、被害者の効果的な救済措置を確立し、加害者の基礎と処罰を確立すること

p18

・精神障害者の組織と緊密に協議しながら、強制力のない地域ベースの精神保健支援を開発し、精神保健医療を一般医療から分離する制度を解体するために必要な立法措置及び政策措置を採用すること

p20・障害者団体と協議のうえ、障害年金の額に関する規定を見直すこと


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