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執筆者の写真林田医療裁判

ワクチン接種と本人の意思確認

新型コロナウイルスのワクチン接種では認知症の高齢者の同意がなおざりになる危険がある。家族と本人は別人格であり、家族の同意を本人の同意に置き換えることはできない。林田医療裁判では長男が「延命につながる治療を全て拒否」した。


ワクチン接種には本人の同意が必要である。本人に接種の意思を確認し、自筆か意思確認した人の代筆で予診票の同意欄に署名する。田村憲久厚生労働相は2021年3月31日の衆院厚労委員会で「本人の同意なくして医療行為はできない」と述べる。


ところが、高齢者施設には家族の同意で代替しようとする動きがある。同意の方法は、ワクチン接種関連の文書を家族に郵送して副反応などのリスクを伝え、家族が判断して返送してもらう形である(「認知症の人にワクチン、同意確認「丸投げ」で現場混乱 副反応リスク「責任取らされると怖い」」京都新聞2021年4月11日)。これでは家族の一部の意思が本人の意思とされてしまう。同意のアリバイ作りになってしまう。


この一部家族の同意を錦の御旗とする傾向は過少医療で共通する。林田医療裁判では立正佼成会附属佼成病院に入院中の患者の長男が患者の経鼻経管栄養の流入速度を医師の許可なく勝手に速めた上、延命につながる治療を全て拒否する旨伝え、これに従った病院は点滴を中止し、日中の酸素マスクもせず、毎日のようにお見舞いに通っていた長女には相談も説明もなされなかった(平成26年(ワ)第25447号損害賠償請求事件、平成28年(ネ)第5668号損害賠償請求控訴事件)。


東京消防庁「第33期東京消防庁救急業務懇話会答申」の蘇生中止方針では家族の同意書への署名を要件とした。これに対して林田医療裁判訴訟団は家族全員の同意書への署名とすることを要望した。


東京消防庁の資料は家族の意思ではなく、本人の意思であることを強調している。「家族等の意思ではなく、あくまでACPに基づく傷病者本人の意思があった場合が対象となります」(東京消防庁「医療機関等向け資料 心肺蘇生を望まない傷病者への対応について」2019年12月)


この点は重要である。林田医療裁判における長男の「延命につながる治療を全て拒否」も長男個人の意見ならば患者の治療方針に影響を及ぼしてはならない。患者本人の意思を推定したものであるかが問われる。



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