林田医療裁判(平成26年(ワ)第25447号損害賠償請求事件、平成28年(ネ)第5668号損害賠償請求控訴事件)では患者(母親)は長男夫婦の要望で酸素吸入を行わなかった。
医師記録には以下のように書かれている。O2 inhalationは酸素吸入である。
9月3日「familyの希望通りO2 inhalationも行わない →当直時間帯のみ許可。DNR (supernatural)」
9月4日「呼吸時々無呼吸で不安定、基本的に2 inhalationを行わないが、夜間のみ少量のO2 inhalationを行う場合あり」
9月5日「SPO2低下することがあるが、夜間以外はO2 inhalationを行わずにfollow upとする」
立正佼成会附属佼成病院は酸素吸入を夜間(当直時間帯)のみ実施した。夜間だけ酸素吸入した理由を医師は、「もとより、酸素があるほうが本人は楽であろうが、夜間は手薄などで夜間に呼吸が止まらないようにするものである」と佼成病院の都合であると裁判で述べた。
母のカルテは第一次中野相続裁判(平成20年(ワ)第23964号 土地共有持分確認等請求事件)で長男が出してきたものである。カルテには長男が「延命につながる治療を全て拒否」などと書かれており、驚いた。「カルテは正直でした。一体どうなっているのだ」と怒りが生じた。中野相続裁判が長い裁判になっているのも、この怒りが背景にある。医療は患者の長男の都合を考えるものではなく、あくまでも患者本人のために最善をつくすものである。
長男は母親の「延命につながる治療を全て拒否」した。キーパーソンの治療拒否が通ってしまう状況を危惧する。高齢者医療などでは点数稼ぎの公務員体質から完治しない治療は無益な治療であると過少医療に走る傾向がある。そうではなく高齢者の人生をまるごと受けとめ、その方の人生に伴走することが医療従事者の仕事の真髄であり、その仕事の価値となる。このことを林田医療裁判や中野相続裁判で訴えている。
日本医療福祉政策学会第5回研究大会「多死社会と医療・福祉を考える」(2021年12月4 日)の天野敬子(耳原総合病院・看護師)「終末期医療の現状とアドバンス・ケアプランニング(ACP)の可能性」では「終末期の医療についても話し合っておくことは大事だが、なにかを決める事が目的にならないように」と指摘されました。
「単に、延命治療をやめさせるためにACPを行うような雰囲気が多くはないだろうか。私はこれまでに、高齢者や進行疾患患者が積極的治療を希望するとわかるや否や、関わる医療介護者がそれを止めるように全力で説得を始める現場を何度も見てきた。回復しなければ人工呼吸器は外せない、だから最初からやらないほうが良い、という「医療の差し控え」は日常茶飯事だ」(加藤寿「アドバンス・ケア・プランニングが適切に医療現場に活かされるには?」日本医事新報5097号、2022年)
母親の治療ではチーム医療と乖離した状況が明らかになった。今やチーム医療は医療分野以外の書籍でも言及されるほど一般化しています。「いまは医療の進歩により、チーム医療が一般化しています。難しい病気であればあるほど、多種多様な医療専門職が1人の患者にかかわり、適切な医療を実現しています」(吉田洋一郎『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』実務教育出版、2021年、80頁)。
「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では意思確認を繰り返し確認することを求めている。漫画『BLEACH―ブリーチ―』の浦原喜助は「息子の将来を親が奪うかどうかって話だ 何回も確認すんのが当然っス」と言う(久保帯人『BLEACH―ブリーチ― 51』集英社、2011年)。公務員的なアリバイ作りの意思確認は自己決定権の尊重ではない。
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