後藤幸生、中川隆、重見研司「生命終末期燃え尽き現象とレム期の夢情動反応 Balance index(心拍変動1/fスペクトル解析による)を指標に」循環制御39巻3号(2018年)は死の間際の状態を研究した論文です(Difference between a fantasy at the ‘End-of-life’ and an emotional reaction of REM-sleep using the 1/f-like spectral analysis of the heart rate variability and Balance index)。重篤状態で終末期を迎えた患者が苦痛なしに平穏に最後を迎えたか、苦しみながら亡くなったかを研究しています。
論文は、意識障害がある場合でも大脳皮質以外の脳中枢内の各部署から錐体外路系情報として、認知情動情報が伝達されている可能性を指摘しています。「例え大脳皮質障害で意識障害があっても、そこ以外の脳中枢内の各部署から錐体外路系情報として、やや曖昧ながらも認知情動情報は伝達されている」(182頁)。
これは、患者が意識が低下している場合でも、心拍変動や夢情動反応が、終末期における状態を理解する上で重要な手がかりとなる可能性を示唆しています。患者が状態が深刻である場合でも、彼らの内部で何らかの情報が伝達されている可能性があります。患者は認識や感情を経験している可能性があります。自分の意識を他者に伝えられないということと自分が何も感じていないことは別問題です。
林田医療裁判(平成26年(ワ)第25447号損害賠償請求事件、平成28年(ネ)第5668号損害賠償請求控訴事件)では担当医師が呼吸困難であえいでいる患者に対して「苦しそうに見えますが今お花畑です」と説明しました。しかし、この研究からは医師の説明は実際の患者の状態と合致していないことが分かります。医師の説明は現実に即しておらず、患者が苦しんでいる状態を正確に表現していないことが論文から理解できます。
林田医療裁判は医療者が患者の状態を的確に伝えることの難しさを示しています。「お花畑」と決めつけるのではなく、患者の状態に対する理解を深め、患者の苦痛を評価することが求められています。林田医療裁判は医療現場でのコミュニケーションの重要性や患者の実際の体験と医師の説明との齟齬を教える事例となります。医療の向上と患者ケアの向上に向けて科学的かつ倫理的な視点からアプローチすることが重要です。
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