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  • 執筆者の写真林田医療裁判

公開質問状(25)反延命主義

患者の権利を守る会は立正佼成会附属佼成病院に公開質問状(25)を送付しました。今回は反延命主義について病院の見解を求めました


立正佼成会附属佼成病院 病院長 甲能直幸 様

公 開 質 問 状(25) 2021年2月22日

前略

公立福生病院事件を考える連絡会は、2021年2月13日にミニ勉強会「人工透析と反延命主義」をZoom開催しました。患者の権利を守る会からは、2名参加しました。


死生学者の堀江宗正・東京大学大学院教授が話しました。延命治療を嫌悪し、治療の差し控えや中止を進める立場を反延命主義と定義しました。

林田医療裁判(平成26年(ワ)第25447号損害賠償請求事件、平成28年(ネ)第5668号損害賠償請求控訴事件)では患者の長男が「延命につながる治療を全て拒否。現在Div.(注:点滴)で維持しているのも好ましく思っていないようである」と、担当された岩﨑正知医師の2007年8月20日のカルテに記録されています。これはまさに反延命主義になります。


岩﨑医師のカルテは、長男の反延命主義の意向を記録するだけで、佼成病院が長男の真意の確認や、それが患者本人の意思であるか、他の家族は同意見なのかなどを確認していません。反対にカルテは上記に続けて「本日にてDiv.終了し、明日からED(注:経腸栄養療法Elementary Diet)を再開する」と記載します。長男の要望があったその日に点滴を終了したことになります。

また岩﨑医師は、治療を拒否した長男について「カルテ記載内容の補足として、私は、大事を取りすぎて、意思疎通ができないまま寝たきり状態になるのが最善とは言えない、という主治医の理念をわきまえた上での延命治療拒否だと思いました。」と陳述しました(乙A第3号証「岩﨑正知医師陳述書」8頁)。

「主治医の理念をわきまえた上での延命治療拒否」とは医師による誘導、露骨なパターナリズムです。東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は「わきまえる」発言が女性蔑視として辞任を余儀なくされました。Twitterでは2021年2月4日に #わきまえない女 がトレンドになりました。この2021年2月に「主治医の理念をわきまえた上での延命治療拒否」を読み返してください。


勉強会では新型コロナウイルス感染症の事例が紹介されました。医師が高齢患者の家族に「人工呼吸器の治療をしても肺自体がなかなか良くならなかったり、悪くなった場合に立ち上がるのがかなり難しくなったりする」と説明した事例です。家族は「健康で戻れんだったらいいけど、そうでないとしたら」として人工呼吸器を望みませんでした。


この健康で戻れるのならばいいが、障害が残るならば治療を望まないという発想は林田医療裁判の長男に重なります。林田医療裁判の患者は車いす生活になりましたが、病院から退院を示唆されるまでに回復し、リハビリをしていました。ところが、長男は「延命につながる治療を全て拒否」しました。しかも、長男は、資格がないのに医師の許可なく勝手に患者の経管栄養の流入速度を速めました。その後患者は嘔吐して誤嚥性肺炎になりましたが、その治療途中で長男は、治療を拒否して、酸素マスクも拒否して患者を死に至らしめました。


勉強会で反延命主義という考え方が提示されたことは大きな意義があります。これまで延命治療の嫌悪や拒否は個人の選択の自由として語られる傾向があったためです。実態は個人の選択の自由というものではなく、反延命主義という価値観の押し付けであることを反延命主義という考え方が明らかにしました。患者の長男の意向で反延命主義が実践された林田医療裁判は、反延命主義が個人主義や自己決定権と対立するものであることを示す具体例です。


反延命主義は医療の敗北・自己否定と言ってよいものです。患者の自己決定権は尊重しなければなりませんが、反延命主義を進めるために患者の自己決定権に乗っかることはあってはならないことです。まして患者の意思を無視して反延命主義を進めることがあってはなりません。医療機関は反延命主義に対して見解を示すことには大きな意義があります。佼成病院としての見解をお聞かせください。


公開質問状の質問の一つに「『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』の強調する繰り返しの意思確認を実現するために取り組みをしていますか」があります。これは医療の基本であるInformed Consentに関わる問題です。

日本ではInformed Consentが形骸化されていると批判されています。自分の意見に誘導し、相手の同意を取り付けようとする傾向があります。ミニ勉強会「人工透析と反延命主義」でも延命治療をしない方向でしつこくしつこく同意を求める運用がなされていると指摘されました。

この点は海外の先進的な民間企業の意思決定に学ぶ価値があるでしょう。GAFAの一角であるGoogleの働き方を解説した書籍は「コンセンサスとは全員にイエスと言わせることではなく、会社にとって最適解を共に考え、その下に結集することなのだ」と指摘します(エリック・シュミット著、ジョナサン・ローゼンバーグ著、アラン・イーグル著、ラリー・ペイジ序文、土方奈美訳『How Google Works 私たちの働き方とマネジメント』日本経済新聞出版、2014年、262頁)。

「最適解に到達するには、意見の対立が不可欠だ。オープンな雰囲気の下、出席者が自分の意見や反対意見を述べなければならない。なぜならすべての選択肢を率直に議論しなければ、全員が納得し、結論を支持することはあり得ないからだ」(262-263頁)。Informed Consentは繰り返しの意思確認の参考になる姿勢です。佼成病院の見解をお聞かせください。


いつものように、未回答のままになっている第1回公開質問状を一緒に掲載いたしますので合わせてご回答をお願いします。このような問題は、市民と共に議論を深めることが不可欠ですのでご回答は、有無に関わらずネット上に掲載いたします。

                               草々

 *****

 公 開 質 問 状(2019年6月30日 第1回)

第1 質問事項

1.患者の家族の中の悪意ある人物により、経管栄養が操作されるリスクに対して、その予防や検知の対策を採っていますか。採っている場合、その具体的内容を教えてください。

2.複数人の家族の意見から本人の意思を推定する取り組み内容を教えてください。

3.「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の強調する繰り返しの意思確認を実現するために取り組みをしていますか。している場合、その具体的内容を教えてください。


第2 質問の趣旨

 1  林田医療裁判では、経管栄養の管理や治療中止の意思決定のあり方が問われました。林田医療裁判の提起後には、点滴の管理が問題になった大口病院の連続点滴中毒死事件や自己決定権が問題になった公立福生病院の人工透析治療中止問題が起きました。また、「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」は2018年3月に「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に改定され、意思確認を繰り返し確認することが求められました。林田医療裁判において問われた争点は「終了」しているのではなく、現代日本の医療の問題と重なり問われ続けています。


 2  そこで、私達は林田医療裁判を経験し又その経緯を知った者として、広く医療の現状と課題について考察し、患者の安全と幸せは何かを探求しています。そして、このような問題は広く社会に公開して議論を深めていくことが、適切な医療を進める上で不可欠であると考えています。とりわけ貴病院は、経管栄養の管理や治療中止の意思決定の問題について直面された医療機関として、適切な医療を進めるためのご意見をお寄せになることが道義的にも期待されるところであると思われます。


3  従いまして、上記の質問事項に回答をお寄せ頂けますよう要請いたします。この質問と貴病院の回答はネット上に公開することを予定しています。このような公開の議論の場により、医療機関と患者ないし多くの市民の方が意見を交わし、相互の認識と理解を深め、適切な医療を進める一助にしたいと考えています。この公開質問状の趣旨をご理解いただき、上記の質問事項に回答を寄せていただきたい、と切に要望します。ご回答を連絡先まで郵送してください。回答締切日を二週間以内にお願い致します。   

以上






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