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執筆者の写真林田医療裁判

日本臨床倫理学会「日本版POLST(DNAR指示を含む)作成指針」

更新日:2021年5月23日

林田医療裁判は「延命につながる治療を全て拒否」した長男をキーパーソンとする立正佼成会附属佼成病院の主張を認め、他の家族の意見を聞かないことを許容した(平成26年(ワ)第25447号損害賠償請求事件、平成28年(ネ)第5668号損害賠償請求控訴事件)。これは日本臨床倫理学会「日本版POLST(DNAR指示を含む)作成指針」に反する。


「日本版POLST(DNAR指示を含む)作成指針」の「POLST(DNAR指示を含む)作成に関するガイダンス」は以下の確認事項を掲げる。佼成病院は、これらの確認をしていない。

「代理判断者の意思表示は,患者の立場に立ったうえで,真摯な考慮に基づいたものですか?」

「特に,家族等の判断や決定は,本当に「患者本人の意思を推定あるいは反映しているのか?」,もしかしたら「家族自身の願望とか都合ではないのか?」という倫理的に微妙な違いに敏感になる必要があります」

「家族等(代理判断者)は,患者と利益相反はありませんか?」

「家族等(関係者)内で,意見の相違はありませんか?」


家族がDNARを表明する場合、DNAR指示が患者の真意なのか、家族の指示ではないのかという疑問が出てくる(箕岡真子『蘇生不要指示のゆくえ―医療者のためのDNARの倫理』ワールドプランニング、2012年)。それを払拭するために必要な手順である。


POLST; Physician Orders for Life Sustaining TreatmentはDNAR指示を含む医療処置に関する具体的指示である。DNARは心肺停止状態になった時に二次心肺蘇生措置を行わないことであるが、DNARという言葉が一人歩きし、実質的な延命治療の差し控え・中止となってしまいがちである。このために、日本臨床倫理学会ではPOLST作成指針を定めた。


DNARの誤用や拡大解釈は他所でも指摘されている。「DNARの下に基本を無視した安易な終末期医療が実践されている,あるいは救命の努力が放棄されているのではないかとの危惧が,最近浮上してきた」(日本集中治療医学会「DNAR指示のあり方についての勧告」2017年3月16日)


「終末期医療では「開始した治療(例えば人工呼吸器)の中止は困難かつ不可」であるがDNARでは「容易に可能」,という誤った解釈が全国的に敷衍している」(丸藤哲「日本集中治療医学会「DNAR指示のあり方についての勧告」 救命の努力を放棄しないために」医学界新聞2017年5月22日)


DNARは新型コロナウイルス感染拡大による医療資源逼迫の中でも問題になっている。「骨格提言」の完全実現を求める大フォーラム実行委員会の公開質問状に対する川崎市回答(2021年4月20日)は「医療機関内における一般通念として、DNARと人工呼吸器装着を望まないことは同義として捉えることが多い」とする。これはDNARの誤った理解である。


DNARは心停止になった後で二次心肺蘇生措置を行わないことである。心停止になる前に呼吸困難になれば人工呼吸器を使うことは適切な対応になる。最初から人工呼吸器を使用しないと決めつけることはできない。これは結論から理由を組み立てる公務員流に倒錯した論理である。


川崎市回答は以下のように記す。「神奈川モデルでは、主にECMOや人工呼吸器管理を要する重症患者用病床と、それ以外の中等症患者等用病床がありますが、延命措置等を希望しない方については、概ね人工呼吸器管理を行わない病床に受け入れていただきました」。これは怖い話である。DNARを表明し、「人工呼吸器管理を行わない病床」に入れられてしまうと容態が急変して呼吸困難になっても人工呼吸器をつけてもらえなくなる。


結局のところ、人工呼吸器を使う患者と使わない患者を入院時に選別したいから、DNARを確認するということになる。需要に応えるために供給する民間感覚ではなく、現状の供給能力を前提として、そこに需要を無理やり当てはめようとする公務員的発想である。





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