患者の権利を守る会は林田医療裁判(平成26年(ワ)第25447号 損害賠償請求事件)を踏まえて、立正佼成会附属佼成病院に2019年11月22日付で公開質問状(11)を送付しました。佼成病院や京大病院で起きた高濃度薬剤投与で患者が死亡した医療事故にも言及しています。
立正佼成会附属佼成病院
病院長 甲能直幸 様
公 開 質 問 状(11)
2019年11月22日
前略
そろそろ冬仕度の忙しい季節になりました。病院長様には、私達の面談を断り公開質問状にも一度もご回答して頂いておりませんが、如何お過ごしでしょうか。第11回目の公開質問状をメールと郵送でご送付致します。
前回11月8日では、公開質問状も10回目と相成りましたので10回記念として企画を致しました。しばらくは、公開質問状(10)の題材から取り上げて議論をするのも良いかと存じます。
「日本医師会のシンクタンクの意識調査では、受けた医療に満足していない理由の1位が医師の説明、2位が待ち時間でした(日医総研ワーキングペーパーNo.384「第6回 日本の医療に関する意識調査」2017年)。一般に思われている待ち時間以上に医師の説明に不満があることは注目に値します。医療側が考えている以上に丁寧かつ詳細な説明が求められています。」
以上のように満足しない理由に「医師の説明に不満」があったことが1位に上がりました。私達は、林田医療裁判の体験を踏まえて以下を考えました。
1.貴院からは、患者の死後になって初めてキーパーソンは患者の長男がなるものであることを聞きました。しかし、患者が入院当時佼成病院からは、キーパーソンの説明を受けていませんので他の家族は長男がキーパーソンであることを知りませんでした。当然他の家族は、佼成病院でのキーパーソンの役割、権限等を知りませんでした。
2.ところが貴院では、キーパーソンが治療を拒否しました。担当の岩﨑正知医師はキーパーソンの治療拒否に従って翌日より治療法を変更・中止しました(医師記録8月20日)。しかし岩﨑医師の記録には、キーパーソン自身に治療拒否による利益不利益を説明した様子はありませんでした。また他の家族は知らなかったので当然のことですが、岩﨑医師より治療法変更・中止の説明は受けませんでした。
3.8月20日にキーパーソンが治療を拒否してから患者の病状は悪化していきました。しかし他の家族は、入院患者に適切な治療がされているものと信じていました。9月7日の夕方岩﨑医師が病室に来られました。岩﨑医師は、生きようと頑張っている患者の様子を見て「苦しそうに見えますが今お花畑です」と言われて何もしないで退室されました。岩﨑医師が治療法変更・中止を決められた8月20以降、家族に説明したのは、患者が亡くなる前日のこれ1回だけです。この時の家族は、患者の治療法が変更・中止になったことの説明を受けていませんでしたので患者は十分な治療を受けているものと信じていました。
4.実は、この9月7日の朝キーパーソンの要望で患者の死が決められていたことを、家族は知りませんでした。岩﨑医師より病状説明を受けていない家族は、長男の要望で患者は、酸素マスクをされないで自力呼吸をさせられて、このまま命を絶たれることが決められたことを知りませんでした。
母親の死から2年経って家族は、岩崎医師作成のカルテに「長男と自然死の方針を確認」と書かれているのを見て、「普通ならやってもらえる治療をされない、こういうのを自然死とは言わないのではないか?」という疑問が生じました。
5.結局8月20日以降、治療法が変更されて母親が亡くなるまでに家族が、岩﨑医師から受けた説明は、「苦しそうに見えますが今お花畑です」これだけでした。この説明の中に母親の命のやり取りが込められていたことを家族は見抜くことができませんでした。もう少し分かり易く丁寧に長男の治療拒否の事実、それによる治療法変更・中止及びそれに伴う利益不利益等の説明があれば患者本人は勿論のこと家族は違う選択ができました。
岩﨑医師がしっかりと説明されていれば林田医療裁判の悲劇は起こりませんでした。患者は半身不随になったとしても生きて退院することができたでしょう。・・・母親の命を助けることができなかったことが悔やまれます。
6.また岩﨑医師は、「患者の意思確認はしない。キーパーソンと話す」という理念をお持ちでした。
しかし、「患者本人の意思の尊重は、がんに限らず、医療の基本的理念になりつつある。・・全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は、『当たり前のことだが、治療方針の決定では本人が尊重されるべきだ。』」と述べられています(公開質問状(8)1頁)。
岩﨑医師の理念「患者の意思確認はしない。キーパーソンと話す」は、家長制度の戦前ならいざ知らず、現代に「患者の意思確認はしない」などと言っていたら先進諸国から笑われてしまいます。岩﨑医師は、天野理事長が言われた「当たり前のことだ」ができていませんでした。
京都大医学部付属病院では、高濃度の薬剤を投与し、患者が死亡する医療事故が起きました(2019年11月19日読売新聞、京都新聞等)。
高濃度の薬剤を誤投与して患者が死亡する医療事故は佼成病院でも起きています(「佼成病院の医療ミス、重体女性が死亡 高濃度酢酸誤投与」産経新聞2011年10月12日)。この二つの医療事故は、共に患者の訴えを無視したことが被害を拡大させました。
佼成病院では、患者が投与直後に嘔吐などの症状を訴えましたが血液検査などの適切な処置をせず、内科医は薬を処方して帰宅させました。医師は、女性の家族に「検査が長引いたため、吐き気を感じている」と説明しただけでした。
京大病院でも患者は炭酸水素ナトリウムの点滴開始直後から血管の痛みや顔面のほてり、首の痺れといった症状があり、「医師を呼んでほしい」と訴えました。しかし、担当医師は投与速度をおとすよう看護師に指示しただけで診察しませんでした。
記者会見した宮本亨病院長は、「患者の訴えを的確に受け止められず、家族の期待を裏切る結果になり申し訳ない」と陳謝しました。
患者の意識への鈍感さは、佼成病院の岩﨑医師の「苦しそうに見えますが今お花畑です」と共通します。
林田医療裁判では患者は呼吸が苦しそうでしたが、生きようと頑張って呼吸をしていました。呼吸困難であえいでいる患者を見て担当医師は、「苦しそうに見えますが今お花畑です」と言って放置しました。しかし最近の医学研究では誤りが明らかになっています。
重篤状態で終末期を迎えた患者が苦痛なしに平穏に最後を迎えたか、苦しみながら亡くなったかを研究した論文があります(後藤幸生、中川隆、重見研司「生命終末期燃え尽き現象とレム期の夢情動反応Balance index(心拍変動1/fスペクトル解析による)を指標に」循環制御39巻3号、2018年)。「例え大脳皮質障害で意識障害があっても、そこ以外の脳中枢内の各部署から錐体外路系情報として、やや曖昧ながらも認知情動情報は伝達されている」としています(182頁)。生命は内外のストレスに微妙に対応して反応し、体内バランスを元の様に整えようとしています。
林田医療裁判は佼成病院にとって患者本位、患者ファーストの医療に向き合う材料になります。真摯に向き合われることを期待します。
貴院において安易に命が失われたことの責任は重大です。一人の医師だけの判断に任せず、二重三重のチェック体制を行い広く共有することによって二度と悲劇が起こらないように取り組む必要性があります。林田医療裁判において問われた争点は「終了」しているのではなく現代日本の医療の問題として問われ続けています。
この質問状は、ご回答の有無にかかわらずネット上に公開させて頂きます。
いつものように、2019年6月30日付 第1回公開質問状を以下に掲載致
します。ご回答は2週間以内に郵送にてお願いします。
草々
Comments