英国の医学誌The Lancetは2023年11月8日付でナチス・ドイツの犯罪行為で医師や医学者が中心的役割を担っていたとする論文「医学、ナチズム及びホロコーストに関するランセット委員会 歴史上の証拠、現代への影響、将来への教訓」を掲載した(The Lancet Commission on medicine, Nazism, and the Holocaust: historical evidence, implications for today, teaching for tomorrow, November 8, 2023.)。
ナチス政権下では人体実験などの医学的残虐行為が数多く行われた。ナチスは安楽死と称して殺人を行った。これによって少なくとも23万人が死亡した。そのうちの7千人から1万人が子どもであった。また、30万人以上が「遺伝子学的に劣性」と見なされ、強制不妊手術を受けさせられた。
これらの非人道的でしばしば大量虐殺的な政策の立案、支援、実施は、医療専門家が重要な役割を果たした。医学的残虐行為は「少数の過激な医師」や「強制された」医師によるものだけではなかった。ドイツでは1945年までに非ユダヤ人医師の50%から65%がナチス党員となっていた。これは他の学術専門職と比べ、はるかに高い割合であった。
この歴史を学び、振り返ることは、医療の学習者や実践者だけでなく、彼らが奉仕する患者や地域社会にとっても様々な恩恵をもたらす。しかし、健康科学のカリキュラムでこのトピックが取り上げられることはほとんどない。ヘルスケアの核となる価値観や倫理観は脆く、守られなければならない。常に批判的な評価と強化が必要と論文は主張する。
守らなければならないものの一つに本人の意思があるだろう。現代日本には医療費削減や医療資源の逼迫であるという本人とは無関係の要因で安楽死が進められる実態がある。既に患者の長男の意思で治療を中止する林田医療裁判(平成26年(ワ)第25447号損害賠償請求事件、平成28年(ネ)第5668号損害賠償請求控訴事件)が起きている。本人の意思はアリバイ作りのために形式的に取得するものであってもならない。公立福生病院透析中止事件では安易に「延命治療」を中止させたり、その約束をさせたりする行為が批判された。
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