患者の権利を守る会は林田医療裁判(平成26年(ワ)第25447号 損害賠償請求事件)を踏まえて、立正佼成会附属佼成病院に2020年8月27日付で公開質問状(19)を送付しました。
立正佼成会附属佼成病院
病院長 甲能直幸 様
公 開 質 問 状(19)
2020年8月27日
前略
今年7月23日に医師らが京都で筋萎縮性側索硬化症の女性を殺害したとして、嘱託殺人容疑で逮捕される事件が起きました。
この事件は、社会的規範を大きく逸脱したものとして大きく批判されています。
日本医師会の中川俊男会長は、7月29日の定例記者会見で「患者から死なせてほしいという要請があったとしても、生命を終わらせる行為は医療ではない」と述べています(「ALS患者嘱託殺人 日医会長「安楽死の議論の契機にすべきではない」」毎日新聞2020年7月29日)。
林田医療裁判の長男は、経鼻経管栄養の流入速度を速め、その後嘔吐して誤嚥性肺炎になった患者の「延命につながる治療を全て拒否」(医師記録2007年8月20日)しました。
長男は、患者本人の意思を確認せず、他の家族達と相談せず、自分の気持ちで治療を拒否しました。長男に従った岩﨑正知医師も患者本人の意思を確認しませんでした。これは嘱託殺人事件以上に一線を越えているのではと考えます。
佐伯仁志「治療の不開始・中止に対する一考察」法曹時報第72巻第6号(2020年)は林田医療裁判(東京高等裁判所平成29年7月31日判決、平成28年(ネ)第5668号損害賠償請求控訴事件)の参考になります。
「プロセスガイドラインは、刑事事件となった事例で医師が一人で判断してしまった事例であるという認識のもとに、多職種のチームで治療中止の判断を行うことを求めた」(3頁)。しかし佼成病院は、この点の考慮が抜け落ちています。複数の家族から確認しておらず、キーパーソンの意見が家族の意見を集約したものであることも確認していません。医療従事者がチームで判断した形跡もなく岩﨑医師一人の判断で長男が治療を拒否したその日に「本日で終了」(医師記録2007年8月20日)としました。
本論文は終末期の混同も指摘しています。「治療中止は、治療を受ければ相当期間生存することができ、必ずしも終末期にあるとはいえない場合にも問題となる」「治療を中止すると患者が短期間に死亡する場合も『終末期』に含められることがあるが、治療中止を行う時点で終末期にある場合と治療中止によって終末期になる場合とは明確に分けて論じられるべきである」(5頁)。
患者が死亡したという結果から逆算して患者が死亡した直前を終末期と判定することは誤りです。林田医療裁判の患者も長男の治療拒否・酸素マスク拒否に安易に応じた結果として死亡に至りました。
本論文は医師側が治療拒否に安易に従うことを戒めています。「治療拒否権を認めたからといって、治療を拒否しないように説得することが権利侵害として否定されるわけではなく、むしろ説得することが医師の義務として求められている」(25頁)。これも林田医療裁判の論点になります。
本論文は「早い段階で生命を終わらせる選択の方を促進してしまうような法理論は、法律学の責任において、明確に否定されなければならない」(辰井聡子「治療不開始/中止行為の刑法的評価 『治療行為』としての正当化の試み」明治学院大学法学研究86号、2009年、65頁)に賛同する立場で書かれています。これは結構なことであると思いますが、岩﨑医師の理念は「意思疎通ができないのに命を長らえても意味がない」と述べられました。そして治療を拒否した長男を「私の理念を理解した」と語りました。佼成病院の理念も同じでしょうか?
一方で、法律論はどうしても「治療拒否の意思表示があった場合に治療しないことは認められるか」という問題設定で議論されることになりがちです。現実は治療拒否の意思の有無が問題になることが多い。形式的な意思表示があったとしても、それが本当の意思と言えるものか、情報の非対称性がある中で誘導されたものではないかが問題になります。
佼成病院は、岩﨑正知医師が「苦しそうに見えますが今お花畑です」と言ったときに明確に反対しないから賛成したものと決めつけました。「早い段階で生命を終わらせる選択の方を促進してしまうような法理論は、法律学の責任において、明確に否定されなければならない」との記載があります。
佼成病院では、意思表示の認定の段階から考える必要があると思われますのでご検討を要請いたします。
例によって、まだご回答がない第1回公開質問状を以下に掲載いたします。このような問題は佼成病院だけの問題とするのではなく、広く世間に公開して議論を深めることで開かれた医療を進めるために役立ちます。この質問状はご回答の有無に関わらずネット上に公開させていただきます。ご回答は2週間以内に郵送でお願い致します。
草々
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