明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。
本年最初の公開質問状(14)を発送致しました。
今回は、東京消防庁救急隊の蘇生中止について林田医療裁判訴訟団が提出した要請書に基づいて議論しました。
人の命を左右するため極めて慎重に議論する必要があります。これは医療現場においても同様です。
市民と共に議論を深めるために、公開質問状はネット上に公開しています。林田医療裁判ブログも併せてご覧いただければ幸いです。
風邪が流行っています。お体をご自愛ください。
立正佼成会附属佼成病院
病院長 甲能直幸 様
公 開 質 問 状(14)
令和2年1月6日
前略
病院長様にはお元気でお過ごしのことと存じます。昨年は市民の疑問や意見に耳を傾けて頂きありがとうございました。本年もよろしくお願い申し上げます。第14回公開質問状をご送付致します。ご意見などお伺い頂ければ幸いです。
東京消防庁は2019年11月20日に「心肺蘇生を望まない傷病者への対応について新たな運用を開始します」と発表しました。讀賣新聞は2019年12月2日に「東京消防庁 救急隊蘇生中止を可能に 終末期患者意思を尊重」と題して以下のように報道しています。
「東京消防庁 救急隊蘇生中止を可能に 終末期患者意思を尊重
延命治療を望まない終末期の患者について、東京消防庁は16日から、救急隊が心肺蘇生や搬送を中止できる新たな運用をはじめる。『自宅で最期を迎えたい』という患者の意思を尊重するためで、家族の同意や、医師への確認などを条件とする。高齢化による『多死社会』を迎え、同様の運用は消防の現場で広がりそうだ。
東京消防庁によると、新たな運用の条件は、①患者が成人で心肺停止②事前に本人が医師や家族らと話し合い、蘇生を行わないことで合意③現場で救急隊が『かかりつけ医』に連絡し、事前の合意や症状を確認―など。条件を満たせば蘇生を中止し、患者を救急搬送せずに家族らに引き渡す。その後、医師がその場で死亡確認を行う。患者の気持ちが症状によって変わっていくことにも注意が必要で、終末期の患者が明確な意思を固めていることが前提となる。
東京消防庁の緒方毅 参事は『人の命を左右するため、極めて慎重に議論を重ねた上で決定した。今後、実施状況を検証しながら、より良い運用を目指していく』と話している。
また延命事前に話し合いについては、救急医療に詳しい横田裕行・日本医科大教授は『患者の意思に沿った対応を可能にするもので、患者や家族にとって本来あるべきルールだ』と話している。」
この運用の見直しについて東京消防庁は、昨年春から検討していましたが、2019年2月12日、東京消防庁第33期東京消防庁救急業務懇話会は、救急隊による蘇生を中止する旨の答申を公表しました。
それに対して林田医療裁判訴訟団は、同年3月7日に以下の要請文を東京消防庁に提出致しました。
「貴懇話会が2019年2月12日に公表された救急隊による蘇生を中止する旨の答申に関して要請いたします。
1 林田医療裁判は、入院中の患者の長男が患者の経鼻経管栄養の流入速度を医師の許可なく勝手に速めた上、延命につながる治療を全て拒否する旨伝え、これに従った病院は点滴を中止し、日中の酸素マスクもせず、毎日のようにお見舞いに通っていた長女には相談も説明もしなかったことについて、長女が原告となり、病院と長男夫婦の責任を追及した裁判です。
2 答申では、心配停止の患者本人が事前に書面に残していたり家族と話したりして心肺蘇生を望んでいないことが分かった場合は、⓵患者のかかりつけの医師に連絡し、かかりつけ医師が了承し⓶家族が同意書に署名すれば蘇生や病院への搬送を中止できるとし、蘇生を中止した経緯を記録に残すようにする、⓷かかりつけ医師に連絡を取れない場合など要件を満たさない場合は蘇生する、との制度を提言しました。
答申が特定の家族の意向だけで蘇生を中止せず、かかりつけ医師の了承、家族の同意という要件を課し、蘇生を中止した経緯を記録に残すとしたことは評価します。また、かかりつけ医師に連絡を取れない場合など要件を満たさない場合は蘇生するとしたことは、原則が蘇生であるという立場を示すもので、これも評価します。
3 しかし、⓶家族が同意書に署名すれば蘇生や病院への搬送を中止できるようにするとの点は改善の余地があると思います。特定の家族の意見や医師の理念だけで蘇生が中止されてしまう危険があることを強く懸念するからです。
林田医療裁判では、長女は母親の死から2年後にカルテを見て初めて治療が中止されたことを知りました。医療記録には「長男は延命につながる治療すべて拒否、現在DIVで維持しているのも好ましく思っていない」とあり、「本日にてDIV(点滴)終了」と書かれていました。このように、医療現場では特定の家族をキーパーソンとし、キーパーソンの意見だけで治療方針が決められてしまうことがあります。また、高齢者への過少医療が問題提起されています。しかも、かかりつけ医師の了承がどこまで患者本人の利益を代弁できるものか疑問があります。
4 それだけに、(かかりつけ医師の了承に加えて)⓶家族が同意書に署名すれば蘇生や病院への搬送を中止できるようにする、との点は、次のように改定されるよう要請いたします。
⓶家族全員が同意書に署名すれば蘇生や病院への搬送を中止できる。但し、判断能力のある18歳以上の家族全員の署名が得られない場合は除く。
ご検討をお願いいたします。さらにその検討結果につきご連絡頂きたくお願い申上げます。
以上」
なお東京消防庁より同年3月12日に以下の返信がありました。
「貴重なご意見ありがとうございます。
第33期東京消防庁救急業務懇話会の答申を踏まえ、心肺蘇生を望まない傷病者に対する救急隊員の対応について、今後具体的に進めてまいりますが、その際の参考とさせていただきます。
東京消防庁」
実際、林田医療裁判における貴院の対応は、家族らと相談することなく病院によって選出されたキーパーソン一人の意見で患者の治療法が決められてしまいました。また担当された岩﨑医師一人の一度の判断や個人的理念で実行されました。患者本人や他の家族らと協議・説明することはありませんでした。
結果として患者は、何も知らされずに死んで行きました。他の家族らは長男の治療拒否に岩﨑医師が従ったことを知りませんでした。
以上のように林田医療裁判において問われた争点は、現代日本の医療の問題として東京消防庁救急隊業務を具体的に進める際の参考となりました。
東京消防庁の心肺蘇生の中止は心肺停止確認後の問題です。心肺停止が前提になります。林田医療裁判のような心肺停止前の治療中止の場合は、これよりもはるかに厳格な要件が求められることになります。医療現場で東京消防庁よりも緩い基準で治療中止が行われているならば問題です。 東京消防庁の基準では傷病者本人の心肺蘇生の実施を望まない意思の確認は必ずかかりつけ医等に行うこととされました。家族の一人の意思を鵜呑みにしてはならないということです。 かかりつけ医等への確認項目には、ただ心肺蘇生を望んでいないというだけでなく、傷病者本人の意思決定に際して想定された症状と現在の症状が合致していることが必要とされました。たとえば抽象的にピンピンコロリが良いと言っていたというレベルでは要件を満たさないことになります。
この質問状は、ご回答の有無にかかわらずネット上に公開させて頂きます。いつものように、2019年6月30日付 第1回公開質問状を以下に掲載致します。ご回答は2週間以内に郵送にてお願いします。
草々
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