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  • 執筆者の写真林田医療裁判

川崎協同病院気管チューブ抜去・薬物投与死亡事件

川崎協同病院気管チューブ抜去・薬物投与死亡事件は医師が気管支ぜん息の重積発作により入院しこん睡状態にあった患者から,気道確保のため挿入されていた気管内チューブを抜管し、患者が死亡した事件である。法律上許容される治療中止に当たるかが争われた。


最高裁判所平成21年12月7日第三小法廷決定・判例時報2066号159頁は以下の事情から法律上許容される治療中止に当たらないと判断した。患者の余命等を判断するために必要とされる脳波等の検査が実施されておらず、発症から2週間の時点でもあり、回復可能性や余命について的確な判断を下せる状況にはなかったとする。また、回復をあきらめた家族からの要請に基づき行われたものの、その要請は病状等について適切な情報を伝えられた上でされたものではなかった。


佐藤結美「私の心に残る裁判例(第17回)終末期医療における法的問題の「抜本的解決」について」(Web日本評論 2019年12月2日)は、この決定についてのエッセイである。判例時報の非売品小冊子『私の心に残る裁判例vol.2』(2020年8月)にも掲載されている。


エッセイは以下のように指摘する。「患者の意思や死期の切迫性、治療の医学的有効性を慎重に検討することで、本件第1審判決がいう「疑わしきは生命の利益に」の原則に従って適法性を判断するのが現実的な落としどころであるといえよう」


この指摘に賛成する。問題は「疑わしきは生命の利益に」が建前の題目ではなく、きちんと判断されているかとなる。林田医療裁判(平成26年(ワ)第25447号 損害賠償請求事件)では準備書面で「疑わしきは生命の利益に」と主張したが、判決は「疑わしきは生命の利益に」を顧慮して判断しているとは言えない。


川崎協同病院事件の大山美宏院長(当時)の声明では患者が「全身管理を行いながら、細菌感染症の治療に全力をあげるべき時期」であったと指摘する(「「気管チューブ抜去・薬剤投与死亡事件」への声明」2010年10月)。林田医療裁判も立正佼成会附属佼成病院の医師がカルテ記載の死因の誤嚥性肺炎が誤診で、多剤耐性緑膿菌多剤耐性緑膿菌(multidrug resistance Pseudomonas aeruginosa; MDRP)の院内感染が死因と証人尋問で証言した(東京地方裁判所610号法廷、2016年6月1日)。やはり「細菌感染症の治療に全力をあげるべき時期」であったのではないか。


声明は事件の反省として「医療スタッフも患者、家族も「一人で決めない、一度で決めない」を基本」とする。これはチーム医療である。林田医療裁判で立正佼成会附属佼成病院がキーパーソンを主張し、チーム医療の立場に立っていないことは残念である。



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