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執筆者の写真林田医療裁判

緊急事態宣言での裁判現状維持の是非

更新日:2021年1月9日

「緊急事態宣言対象地域の裁判所は、現時点では公判などをほぼ現状通り継続する方針」と報道された。Web会議をさらに活用する一方、証人などの長距離移動を伴うケースについては延期も検討するなど個別に判断する(「裁判、ほぼ現状維持 前回は大部分停止、影響考慮 緊急事態宣言」時事通信2021年1月8日)。


「公判」とあるため、刑事訴訟のみを対象とした記事か民事訴訟も含めているか不分明である。2020年4月の緊急事態宣言では多くの期日が停止された。これについて時事通信報道は「多くの法曹関係者は、被告の身柄拘束が長引いたり、破産申請が滞ったりするなど影響が甚大だったと指摘」とする。被告人の身柄拘束が長引くことは問題である。しかし、根本的原因は否認すると機械的に保釈を認めないというような人質司法にある。破産申請にも言及されているため、現状維持の射程は民事訴訟も含まれるのだろうか。


前回の緊急事態宣言でも全ての業務を停止させた訳ではなく、緊急性が高い事件は実施した。よって前回の問題は、緊急性の高い事件を延期させたという緊急性の判断の失敗である。前回の反省は「ほぼ現状通り継続」に結び付かない。上記の問題があるから「ほぼ現状通り継続」とすることは論理の飛躍であり、一度立てた計画を守りたいという思考停止になる。


前回の緊急事態宣言時よりも新型コロナウイルス感染状況は深刻との現状認識に立って、個別の判断を広く柔軟に運用していくべきだろう。政府の諮問委員会では1都3県の県境をまたぐ移動の制限についても、基本的対処方針に盛り込むべきだとする意見も出たという(「効果疑問視するメンバーも 「1カ月の根拠不十分」 緊急宣言了承の諮問委」時事通信2021年1月8日)。


緊急事態宣言では出勤者7割減少が求められているが、裁判所は協力するつもりがあるのだろうか。民間にだけ押し付ける基準になっていないか。民間ではもっと厳しい目標を掲げるところもある。日立製作所は1都3県で原則在宅勤務にするとともに、出社率を15%以下に引き下げる目標を掲げた(「出社率引き下げ、午後8時帰宅 産業界、緊急事態宣言で対策徹底」時事通信2021年1月8日)。


時事通信報道は、あるベテラン裁判官の発言「コロナがどういう病気か、対処法も分かってきた」を紹介する。新型コロナウイルスは世界でもまだ分かっておらず、再流行が起きているのに強気の発言である。清水勇人さいたま市長は防災さいたまで2021年1月8日、「命を守る行動を最優先にしてください」とアナウンスした。


裁判所は新型コロナウイルス感染と無縁ではない。さいたま地裁は2021年1月4日、同地裁刑事部の30代女性事務官が新型コロナウイルスに感染したと発表した(「<新型コロナ>5人死亡、243人感染 7日連続で200人以上 さいたまの施設の3人、陰性判定後に発症」埼玉新聞2021年1月4日)。


鹿児島家庭裁判所は2021年1月5日、鹿屋支部の60代の女性職員の新型コロナウイルス感染が確認されたと発表した(「家庭裁判所職員の感染確認」NHK 2021年1月5日)。札幌地方裁判所では20代の男性職員(裁判所事務官)が新型コロナに感染し、職場内の濃厚接触者など6人が自宅待機となった(「北海道 新型コロナ 新たに160人感染再陽性1人 死亡2人 市職員など感染相次ぐ」北海道ニュースUHB 2021年1月7日)。


時事通信報道は、別のベテラン裁判官の発言「判断が遅れることで生じる損失を考えると、今回裁判は止められない」を紹介する。パンデミックの状況で拙速な判断することの損失もある。国の機関でこれでは、生活がかかっている民間の事業者に制限を要求する資格がなくなる。既に名ばかり緊急事態宣言や緊急事態宣言(名前だけ)と揶揄されているが、形骸化してコロナ禍を長引かせることになる。



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