HPVワクチンの男性への定期接種化に反対する意見書
- 林田医療裁判

- 4 日前
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薬害オンブズパースン会議は2025年12月27日、厚生労働大臣と厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会部会長に対し「HPVワクチンの男性への定期接種化に反対する意見書」を提出いたしました。
2025年12月27日
厚生労働大臣 上野賢一郎 殿
厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会
部会長 脇田隆字 殿
薬害オンブズパースン会議
意見の趣旨
女子へのHPVワクチンの積極的接種勧奨を再開した後に多数の被害者が再度生じているにもかかわらず、エビデンスの存在しない女性への間接効果等を根拠としてHPVワクチンの男性への定期接種化を検討することに、強く反対します。
意見の理由
1 現在の検討状況等について
2025年7月4日及び同年9月25日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会(以下、「ワクチン評価小委員会」といいます)では、HPVワクチンの男性への定期接種化が議論されており、引き続き費用対効果分析の検討をさらに進めていくとのとりまとめがなされています。
しかし、そもそもワクチンの費用対効果を検討するには、ワクチンの有効性と安全性が確立していることが当然の前提として必要です。HPVワクチンについては、そうした前提が全く成り立たないうえ、費用対効果の検討方法にも問題があります。以下、詳述します。
2 女性への積極的接種勧奨再開後の状況が示すHPVワクチンの危険性
(1)積極的接種勧奨再開後の新規被害者の急増
HPVワクチンは、2013 年に中高生の女性を対象に定期接種化されましたが、それ以前から公費による接種が強く推進され、深刻な健康被害をもたらし、定期接種が開始された僅か 2か月あまりで国は積極的な接種勧奨を中止するに至っています。
しかし、当会議による情報公開請求によって明らかになったとおり、製薬会社と国との間の著しく不透明な秘密交渉を背景に、2022年4月から女性に対する積極的勧奨が再開されました。
その後、HPVワクチン接種後の症状のために協力医療機関を新たに紹介受診する患者が急増し、新規患者の数は、2025年 5月までに、判明しているだけでも既に660名を超えています。しかも、すべての協力医療機関が受診者数を報告しているわけではありません。
また、積極的勧奨再開後にHPVワクチンを接種し、入院相当以上に該当する重篤副反応を発症した者は既に 500 名を超えています。しかも、こうした新規患者や重篤副反応発症者の増加は、HPVワクチンの接種者の増加と顕著な相関を示しており、とりわけキャッチアップ接種の〆切との関係で駆け込み需要が生じた時期に、著しく多数の新規患者や重篤副反応発症者が出現しています。
こうした問題点を踏まえ、2025年5月20日の参議院厚生労働委員会においては、協力医療機関全体の新規受診者数すら国が把握できていない現状では一旦立ち止まるべきではないかとも指摘されています。
(2)新規患者の症状の深刻さ
積極的接種勧奨再開以前から、国の研究班である岡部班は、HPVワクチン接種後の副反応疑い患者には、感覚・自律神経・運動・認知機能に関連する多様な症状が重なって発症していることを報告していました。
積極的勧奨再開後に協力医療機関を受診した症例も同様の症状を呈していることが、国の研究班である西原班によって報告されています。
また西原班の報告によれば、令和 6年度のブロック拠点病院を受診して経過をフォローできた90名のうち、症状の消失が確認されたのはわずか10名に留まり、3か月以上症状が持続した例が18名にのぼっています。
現在もこうした症状に対する根治的治療法は開発されていません。こうした状況にありながら、積極的接種勧奨が一旦中止された時点から全く改良されないままの同じワクチンが、中高生の年代の女性に対する定期接種ワクチンとして使用され続けていること自体、許されるものではありません。
3 男性に関し薬事承認された適応症に関する必要性と費用対効果
(1)定期接種化の必要性が極めて乏しいこと
男性に関しHPVワクチンについて薬事承認された適応症は、肛門がんと尖圭コンジローマのみです。
肛門がんは極めて稀ながんであり、全国がん統計のデータから推計すると、肛門がんのうち、HPVワクチンの承認適応となっている扁平上皮がんの男性の粗罹患率は10万人に0.18人程度にすぎません。また、がんの進行度に応じ抗がん剤治療と放射線治療を組み合わせた化学放射線療法、抗がん剤治療が標準治療として確立しており、早期に発見される人も多いので、多くの場合、根治が可能です。
尖圭コンジローマは自然治癒の多い良性疾患です。
当会議が2023年8月に公表した意見書8でも指摘したとおり、この2つの疾患の予防のために、副反応の問題があるHPVワクチンについて、男性に対する接種を定期接種化する必要性は全く認められません。
(2)費用対効果が認められないこと
2024年3月に国立感染症研究所が作成したファクトシート9においては、以下に示すとおり、HPVワクチンの男性への接種については、現在承認されている効能・効果を前提とした場合には、費用対効果の目安(500~600 万円/QALY)となる水準を桁違いに超えるコスト(2億3459万7000円/QALY)を要するとされています。
後述するように、薬機法違反ではありますが、現在適応症とされていない対象疾患として中咽頭がん・陰茎がんを組み入れたとしても9334万9000円/QALYを要することが指摘されています。
4 男性接種による女性への間接効果にエビデンスが存在しないこと
以上のように、男性に対する疾患のみ対象とした場合、費用対効果が著しく悪いことは明白です。そのためか、このファクトシートでは、「女性への間接効果」を考慮することで、一定の条件下であれば費用対効果の目安に近づくとする見解が提示されています。
しかし、そもそも男性への接種によって女性の子宮頸がん等の発症を抑制できるとするエビデンスは存在しません。同ファクトシートも「男性女性間の間接的効果についての情報は極めて限られている」と記載しています。
にもかかわらず、女性接種に伴う男性の尖圭コンジローマの減少効果という、男性接種による女性の子宮頸がんの減少と無関係のデータを唯一のエビデンスとして費用対効果の推計を行っているのです。費用対効果の推計を支える科学的エビデンスはおよそ認められません。
男性に接種した場合にも、女性と同様の副反応が生じることは、臨床試験や海外の実例から既に示されています。
不確かな前提に基づいて、重篤な副反応のリスクのあるHPVワクチンを男性に対して一律に接種することに、国の公衆衛生政策としての合理的な根拠は認められません。
5 承認外の効能・効果を考慮することは薬機法違反であること
ファクトシートでは、男性接種の費用対効果を検討するにあたって、中咽頭がんや男性への接種による女性の子宮頸がんの間接予防効果を考慮した推計も行われていますが、そもそも、これらはHPVワクチンの効能・効果として承認されたものではありません。
あたかもこれらの効果があるかのように謳ってHPVワクチンの接種を男性に勧めることは、承認外の効能・効果を標榜する誇大広告等を禁止した薬機法68 条に違反するものとして、およそ許されません。
6 「社会の立場」「動的モデル」「ジェンダーニュートラル」などをことさらに考慮して費用対効果を検討しようとすることの不当性
(1)「社会の立場」「動的モデル」を考慮することの問題性
本年9月25日に開催されたワクチン評価小委員会では、HPVワクチンの費用対効果を検討するにあたって、「社会の立場」(罹患者の就労への影響などを「生産性損失」として考慮に入れること)や、「動的モデル」(集団内での疾患の伝播や時間の経過に伴う集団全体の変化を考慮する方法)による分析も視野に入れることを求める発言が委員から見られています。
しかしながら、同委員会で池田委員が述べるように、イギリスやベルギーなどでは、ワクチンの費用対効果の検討に生産性損失を含めていません。また、池田委員からは生産性損失を考慮する国においても、過大評価とならない推計方法をとることが推奨されていることも紹介されています。
HPVワクチンと同様にがんの予防をも視野に入れたB型肝炎ワクチンの定期接種化についての費用対効果が分析された際には、関連する疾病の経過が複雑であって生産性損失の推定が容易ではないことを理由として、生産性損失を含めることなく、費用対効果の分析が行われています。
HPVワクチンが予防対象とする子宮頸がんは、HPVの感染者のごく一部が数年~数十年かけて発症するものであり、一方、HPVワクチンが子宮頸がんそのものを予防する効果は証明されておらず、添付文書には、効果の持続期間は不明と記載されています。従って、HPVワクチンについては、B型肝炎ワクチン以上に、生産性損失の推計は困難というべきです。
従って、HPVワクチンについて、「 社会の立場」として生産性損失を考慮して費用対効果を検討しようとすることに、合理性は認められません。
そもそもHPVワクチンに関連して費用対効果を検討するのであれば、HPVワクチンが他の定期接種ワクチンと比較して重篤な副反応症例の報告頻度が格段に高率であることに鑑み、HPVワクチンの副反応被害者がまさに被った就学や就労上の被害の大きさから生じる生産性損失についてこそ、まず精査が進められるべきです。
また、「動的モデル」については、池田委員が指摘するとおり、検討の前提として必要となる十分な国内データ(性的接触行動に関するデータ等)が整備されていません。前提を欠いたまま、これまでの「静的モデル」による検討結果を覆い隠す目的で「動的モデル」が採用されることがあってはなりません。
(2)「ジェンダーニュートラル」を考慮要素とすることの問題性
また、同小委員会では、概念の定義があいまいなまま「ジェンダーニュートラル」あるいは「ジェンダーエクイティー」といった観点を用い、あたかも、これらを考慮すれば費用対効果の論点を超えてHPVワクチンの男性への接種の推奨が認められるかのように述べる委員の発言も見受けられます。
後述する予防接種推進専門協議会による要望書には「HPV関連がんは男性にも発症するにも関わらず、女性のみにワクチン接種の負担を強い、男性は希望しても自費でワクチンを受けないといけないという状況は、男女不平等と言わざるを得ません」などとも述べられています。
これらの発言は、本来女性にも負担させることが許容できないHPVワクチンの副反応のリスクを、男性にも同様に負わせるべきと述べるに等しい暴論であると言わざるを得ず、そのような観点から男性への接種の推奨が容認されることは著しく不合理です。
7 予防接種推進専門協議会による要望書の問題点
予防接種推進専門協議会は、本年10月1日付で、厚生労働省に「HPVワクチンの男性に対する定期接種化に関する要望」と題する要望書を提出し、「構成学会での検討を重ね」た結果としてHPVワクチンの「男性への定期接種の速やかな導入」を要望しています。
しかしながら同要望書はHPVワクチンの危険性、とりわけ女子への積極的接種勧奨再開後の副反応患者の拡大が示すリスクシグナルについては何ら触れていません。
また、「女性のみにワクチン接種の負担を強い、男性は希望しても自費でワクチンを受けないといけないという状況は、男女不平等と言わざるを得ません」などと述べており、そうであるなら、女性への接種の負担の最たるものとして重篤な副反応被害が拡大していることについて、専門家団体としての見解を提示すべきですが、HPVワクチン接種による副反応のリスクを考慮した要望とは全くなっていません。
しかも「男性接種による集団免疫効果が重要」と述べながら、そのような効果が認められることを示すエビデンスを全く提示していません。
かつて同協議会は、2010年11月に緊急声明を発出し、HPVワクチン接種に公費助成が決定された経緯については、選考過程が不透明であって科学的なデータの解析が反映されたものではないとする痛烈な批判を加えています。MSD社からの秘密文書による圧力を背景とした政治決定によってHPVワクチンの積極的勧奨が再開されたことについてこそ、同協議会は批判を加えるべきです。にもかかわらず、同要望書では、こうした不透明な再開の経緯に対する批判的検討は全く行われていません。
以上のとおり、同要望書は、専門家集団が科学的に検討すべき課題に触れないまま、「女性のみにワクチン接種の負担を強い」るのは不平等だとの論理まで持ち出して、エビデンスを示すことなく、男性への定期接種化を要望するものとなっており、ワクチンに関連する科学者集団として、ワクチンの副反応から国民を守るという使命を放棄したものと批判せざるを得ません。
8 男性への定期接種化は政府の推進するEBPMに反するものであること
現在、内閣府は、政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとするとして、エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング(EBPM:証拠に基づく政策立案)を提唱しています。
こうした考え方に照らしても、エビデンスが存在しないにもかかわらず、女性への間接効果があたかも存在するかのような前提に立脚し、基礎データなどの欠落が指摘される「動的モデル」を適用し、「社会の立場」をことさらに強調して本来算定困難な生産性損失を計上することで、男性への定期接種には費用対効果が認められないことを覆い隠して、既に女性に多数の被害者を生み出したHPVワクチンの男性への接種を推進することに、全く政策的合理性は認められません。
9 総括
以上から、当会議は、HPVワクチンの男性への定期接種化を検討することに強く反対します。



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